『電脳ヘルス・ヤヌス「モリガン召喚」』
作:月華
「いらっしゃいませ」
伊藤進が店内へ入ると、黒服の男が頭を下げてきた。
「あの、予約した伊藤ですけど」
「はい、承っております。当店のシステムは、もうご存じですね」
伊藤は、小さく頷いた。
「そうですか。それでは、まずはご入会料とプレイ料をいただきます」
彼は、受付にある生体認証システムへと手をかざし、ネットマネーで代金を支払った。
「それでは、コース設定の方ですが、あらかじめネットでご指定されたものでよろしいでしょうか?」
「シチュエーション設定は、予約した通りで。エンディングは、予約した通り、ランダムで」
「はい、そのように承っています。では、こちらへどうぞ」
黒服の男に従って、伊藤は店内の一室へと入る。中には、人間がすっぽりと入れる大きさの丸いドーム、通称コクーンが置かれている。
「認証を済ませてから、中へお入り下さい」
伊藤はコクーンにつながれた量子コンピュータのモニタへ手をかざし、生体認証をさせた。
それから、ハッチの開いたコクーンへと入り、体を長椅子へと横たえる。
「では、お楽しみ下さい」
黒服の男が頭を下げると同時に、ハッチが閉まる。
外からの明かりが閉ざされると同時に、伊藤の意識はコクーンを通じて量子コンピュータと一体になった。
「これで、良いはずだな……」
召喚の呪文を唱え終えた俺は、机でこしらえた台座の上に全裸で横たわっている健の姿を見つめた。
男の裸、しかも勃起している姿を見るのは、あんまり気持ち良いものじゃないけれど、これも儀式には必要なことだった。
健の体を依り代として、モリガン様を召喚するためには。
しかし、健の体に変化は無かった。
失敗、したのか?
そう思っていると、
「うう……」
健の呻き声が、体育館倉庫に響いた。
見ると、全身がぴくり、ぴくり、と痙攣したように跳ねていて、その腰からそそり立つペニスは、まるで空中へと突き刺さっているかのように、真上を向いている。
「あうっ!」
健の腰が、がくがくと震えたかと思うと、射精を示すかのように、亀頭が一回り膨れあがった。
「あぁ、出るぅぅ!」
これ以上我慢できないと言うかのように、健が呻いた。
だが、上を向いたペニスからは、精液は溢れ出てくることはなかった。
腰の動きからすると射精しているようなのだが、まるで出されているはずの精液が空中に吸い込まれて消えているかのように思えた。
「あぁぁ……」
溜息混じりの健の声に、俺はどきりとした。
その声音には、男の呻き声とは違う、どこか艶っぽいものが感じられたからだった。
それと同時に、健の全身から肌の色が落ちるかのように、白っぽいものへと変わっていった。
変化はそれだけではなかった。
平らだった胸元が盛り上がってきたかと思うと、まるで風船が膨れるかのように、丸くて大きな塊が二つ、せり出してきた。
仰向けになっていても丸い形を保ったままの乳房の先端には、男の視線を集めるために付けられたような、ピンク色の乳首が添えられていた。
その一方で、股間で勃起していたペニスは、射精を終えた後のように縮んでいったかと思うと、その変化はさらに続き、ついには股間に埋もれるようにして無くなってしまった。
ペニスと同時に睾丸も無くなり、そびえるものが無くなった股間には、今度は飴細工を想わせるように、切れ目や皺が入り、男のものを咥え込むもの――女性の性器へと変わった。
上下の性器が変わるのと同時に、全身も変わってきていた。顔立ちは、日本人とはかけ離れた、彫りの深い女性のものになっていて、そんな顔立ちを強調させるかのように、艶のある緑色の髪の毛がシーツのように広がっていく。
腕や指先もほっそりとしたものになっていて、太ももは女性特有の柔らかさを感じさせるものへと変わっていて、爪先も人形細工を思わせるように綺麗に整えられていた。
「あふ……」
健の――健だった女性の口から漏れる声も、その姿にあった、艶っぽい女性のものだった。
もはや、そこに横たわっている女性から、健の面影を見つけ出すことは不可能だった。そこにいるのは、男を惑わすサキュバス――モリガン・アーンスランドそのものだったから。
その変化と、変化の先に現れた彼女の姿に見取れてしまった俺は、モリガン様へと近づこうとした。
そこへ、一陣の風が舞い上がったかと思うと、彼女の体が風に舞っているもの――コウモリによって包み込まれた。
宙を舞うコウモリは、彼女の体に貼り付いたかと思うと、布状に形を変え、彼女を覆うもの――レオタードとストッキングへと変化した。
美しい裸身は隠されてしまったものの、胸の膨らみ、くびれた腰つき、むっちりとした太ももはさらに強調されることとなり、モリガン様が持つ体の美しさを、強調させることとなった。
仰向けになっていたモリガン様が、ゆっくりとその上体を持ち上げた。
それと同時に、机から離された背中には、コウモリを思わせる翼が生えてきた。
その様は、さなぎから孵化した蝶が、羽を広げる様を思い出させた。
上体を起こし終えた時に、彼女のアイデンティティを表すかのように、頭の脇から、角を思わせるような小さな翼が現れた。
「ふう……」
モリガン様の口がかすかに開き、わずかな溜息が漏れた。
下を向いていた頭がゆっくりと動き、こちらを見つめてくる。
目が、合った。
彼女は、何か言いたげな視線を向けてきた。
切れ長の瞳の上で、長いまつげが震えているのが見える。
「モリガン様……」
俺は、神に出会った預言者のように、その名を口にした。
ピンク色に彩られた彼女の唇が、ゆっくりと開く。
「わたしを召喚したのは、あなたね」
眠たげな、それでいて艶っぽさの混じった声が、俺の耳を直撃する。
「は、はい。俺と、依り代になった健の二人でです。
あの……健の意識はどうなっているんでしょうか?」
「心配しなくて良いわ。この体の元の持ち主は、眠った状態になっているから。
わたしが消えれば、また体は元に戻るし、意識も回復するわ」
「そうなんですか。それは良かった」
召喚の書にあった通りのことだけど、それを聞いて俺は一安心した。
「そんなに、この体の元の持ち主のことが心配。もしかして、男同士で恋人同士だったとか?」
「そ、そんなことは無いです。俺も健も、モリガン様一筋ですから」
「ふふ。嬉しいことを言ってくれるわね。それじゃあ、その気持ちを体で示してもらおうかしら」
そう言ってモリガン様は、机で作った儀式用の台へと立ちあがったかと思うと、宙を舞うようにして、ふわりと俺の目の前へと立ちはだかった。
わずか数センチというところまで、モリガン様が近づいてきた。
その肌の温もりや息づかいまでもが、はっきりと感じられるぐらいに近くに。
彼女は、俺を真っ直ぐ見つめて、かすかに笑みを浮かべるなり、その右手を、トランクス一枚になっている俺の股間へと近づけてきた。
「あっ!」
ほっそりとした指先の感触が、布地越しに伝わってくる。
「ふふ。こんなに固くしちゃって」
布地越しに、そのえらばった雁首の形を探るように、指先が動く。
「ああ、モリガン様……」
余裕の表情を浮かべている彼女とは対照的に、俺の息づかいは上擦っていた。
ふいに、彼女の頭が、下へと沈んだ。
勃起している俺の股間の前へと顔を近づけるなり、その両手をトランクスへと掛けた。
「それじゃあさっそく、あなたの精気をいただくわよ」
トランクスが降ろされるなり、ぴょん、と俺のものは、彼女の目の前で、大きく反り上がった。
「こんなにピクピクして、美味しそうね」
言うなりモリガン様は、俺のものを口に含んだ。
「あぁっ!」
興奮と勃起のせいで敏感になっている俺のものへと、ねっとりとした舌先と、むわりとした口中の湿り気、そしてぷるりとした唇が触れてくる。
「ああ、モリガン様……」
俺のモノを咥えた彼女は、味わうように、うっとりと目を閉じつつ、舌を絡め、唇を重ねてくる。
熱い吐息が混じる口中では、ぬめりとした舌先が動きまくっていた。
ぺろぺろと味見をするように亀頭を舐めたかと思うと、今度は形を確かめるかのように、雁首にまとわりついてくる。
その一方で、口中を性器に見立てるかのように、顔を前後に揺さぶって、俺のモノへとピストン運動をしてくる。
その度に、頭上に生えた小さな翼と、緑色の長い髪の毛が揺れて、ふわりとした風を立ててくる。
それまで、俺の股間を向いていたモリガン様の視線が、こちらを向いてきた。
視線が、混じり合う。
切れ長の瞳で見つめられながら、その下にある唇と口中によって、俺のペニスは刺激される。
俺にとっては、初めてとなるフェラチオだったが、そんなことはどうでも良かった。
こんなに気持ち良いことなんて、オナニーでは体験したことなんてなかった。
まるっきり、別世界の気持ち良さだ。
内頬で、舌で、歯で、唇で刺激をしつつ、そんな俺の気持ちを見透かしたかのような流れる視線を送ってくる。
もう、限界だった。
「ああ、モリガン様……俺、もう……出ちゃいます……」
自然と俺の声は、主人に対して供物を捧げる手下のように、許しを請うものになっていた。
そんな俺に対して、彼女はさらに口中を激しく動かしてくることで応えてくれた。
同時に、ほっそりとした両手が俺の腰へと周り、ぎゅっと抱きしめてくる。
「ああ、出るぅぅぅぅ!」
ねっとりとした口中に包まれる中で、俺のペニスは、精液を一気に吐き出した。
口に包まれているため、その量を確認することは出来なかったが、ペニスから溢れていく精液は、いつもの数倍も出たかのように感じられた。
そして、その量に比例するかのように、射精の快感も、いつもの数倍は激しく感じられた。
射精した俺のペニスへと、モリガン様は口を近づけたままだった。
それどころか、喉を鳴らして、俺の出した精液を、ごくり、ごくり、と飲んでいるのが感じ取れる。
「ああ、俺の精液、モリガン様が飲んでる……」
もしも俺のペニスがしゃぶられたままでなかったら、礼を言うのはおろか、土下座をしてまで感謝の気持ちを表したいほどだった。
だが、彼女はまだ、俺のものから一滴残らず精液を搾り取ろうとするかのように、ペニスを咥えたままだった。
やがて、ちゅぱん、という音と共に、彼女の口が離れた。
そこには、一度射精したばかりだと言うのに、まだ出し足りない、もっとモリガン様に精液を捧げたい、と言うかのように、ギンギンに勃起した俺のものがそびえ立っていた。
「うふふ。あなたの精液、美味しかったわよ。こんなに濃くってどろどろして。まだ口の中にこびりついているわ」
言ってモリガン様は、口を開け、舌を伸ばしてきた。
血の色を思わせる紅い口中には、俺が出した白い精液がまばらに散らばっているのが見える。
それを彼女は、見せつけるように舌先ですくい取って、ごくり、と飲み込んでいく。
「それじゃあ、今度は胸で射精してもらうわよ」
「え、それって……」
「今の世界じゃ、パイズリって言うみたいね。さあ、床に仰向けになって」
言われるままに、俺は冷たい床に熱い体を仰向けにして、勃起したペニスを差し出した。
腹に付かんばかりに勃起した俺のモノを、レオタードに包まれた丸い乳房が包み込んでくる。
敏感になっている俺の股間へと、様々な感覚が湧き起こってくる。
すべすべとしたレオタードの生地。
弾力と柔らかさを兼ね備えた乳房。
のしかかってくるかのような重み。
布地の上からでも感じられる乳首。
風船のような乳房を両手で包み込みながら、フェラチオの時よりもこちらへとせり出してきた顔は、俺の反応を伺うように、こちらをじっと見つめている。
みっしりと俺のモノを包み込んでいる乳房が、ゆっくりと前後に動いた。
その度に、さっきのフェラチオとは違った、やはりこれまでに感じたことのない快感が、俺のペニスに湧き起こる。
「どう? わたしのおっぱい、気持ち良いでしょ?」
「はい、凄く気持ち良いです。こんなに気持ち良いの、初めてです」
「ふふ、フェラチオも気持ち良いでしょうけれど、胸だって負けていないわよ。それに、こっちの方が、あなたの顔をまじまじと見ることも出来るし、こうやって話をすることも出来るものね」
確かに、モリガン様の言う通り、フェラチオよりもパイズリの方が、顔を近づけられるし、会話も出来る。
でも、俺ばっかり気持ちよくなっていて、なんだかモリガン様に悪い気もしてきた。
「すみません。さっきから俺ばかり気持ち良い思いをして」
「そんなの良いのよ。さっき、あなたが出した精液、凄く美味しかったわよ。それに、サキュバスが精気を吸い取れるのは、精液からだけじゃないのよ。気持ちよくなっているあなたの存在そのものが、精気の塊みたいなものなの」
「そう、なんですか」
俺のペニスを揉む乳房の動きが、上下のピストン運動から、左右別々に擦り上げるような動きへと変わっていた。
激しさが増すにつれて、胸元を包み込んでいたレオタードがまくり上がり、ピンク色をした乳首が露わになる。
「だから、こんなことをしても、あなたの精気は吸い取れるのよ」
言うなりモリガン様は、レオタードからはみ出した乳首を右手で持ち上げたかと思うと、亀頭の先端へと押し当ててきた。
指先のほっそりとした感触とも、乳房のもっちりとした感触とも違う、こりこりとした乳首の感触が伝わってくる。
乳首が亀頭を擦る度に、俺はまたしても射精をしたい気持ちで一杯になった。
「モリガン様……俺、また……」
訴えるような俺の声を聞いて、二つの乳房が再び俺のモノを挟んでくるのと同時に、その先端部分を膨らみの合間からはみ出させたかと思うと、紅い舌先を伸ばして、ちろちろと俺の鈴口を舐めてきた。
乳房で俺のモノの動きを止めつつ、獲物を味見する蛇のように、舌を伸ばしてくる。
そんな光景を見ながら、俺はまたしても射精へと、一気に駆け上っていった。
「で、出るぅぅぅぅ!」
叫び声と同時に、ペニスの先端からは、さっきの射精と同じぐらいの量をした精液が溢れ出た。
白濁の汁は、モリガン様の顔いっぱいに散らばり、さらに乳房にまで飛び散っていく。
「ああ、すみません」
顔射してしまったことを、俺は必死になって詫びた。
「良いのよ。サキュバスは体のどこでも、精液を吸収することができるんだから」
彼女の言う通り、顔いっぱいに掛かっていた精液は、まるで汗が乾くかのように、その姿を消していった。
頬の一部にわずかに残っていた精液の塊を、彼女は指先ですくい取り、その指先を舌先で美味しそうに舐めた。
その顔は、精気に満ち溢れたかのような笑みが浮かんでいて、その乳房は、さっきよりも一回り大きくなっているように見えた。
そんな彼女の顔の下で、二度の射精を終えた俺のものは、むしろさっきまでよりも大きく固く、そして熱くなっているかのようだった。
「ふふふ。それじゃあ、いよいよ本番ね」
俺のモノを愛おしむように頬ずりをしてから、モリガン様は仰向けになった俺へと跨ってきた。
腰の上に膝立ちになりながら、股間を覆っていたレオタードを横にずらし、女性器――サキュバスの精吸口を露わにする。
そこはすでに濡れていて、ピンク色の襞が、ひくひくと蠢いているのが見て取れる。
「それじゃあ、いくわよ」
モリガン様は、ゆっくりと腰を下ろしてきて、俺のモノを飲み込んだ。
途端、無数の襞々が、その一本一本が独立した動きをしながら、俺のモノへと絡みついてくる。
「ああっ!」
その感触――モリガン様の膣内――は、フェラチオとも、パイズリとも比べものにならないぐらいに気持ちよかった。
もう、ペニスのことしか考えられない。
俺は、体中をモリガン様に包まれ、そして愛撫されているように思えてきた。
俺の意識は、ペニスへと集中していた。
モリガン様の腰が沈んでいく度に、その入り口はきゅっと締まり、俺のものを咥え込んでいく。
そして導いた中では、熱いとすら思えるほどの襞が、亀頭を、雁首を、陰茎を撫で上げ、抱きしめてくる。
その入り口が俺のモノの根本までを咥え込んだ時には、その先端は、まるで吸盤で吸い上げているかのように思えた。
根本を締め付けられ、間を絡み取られ、先端を吸われつつ、俺のモノをすっぽりと咥え込んだ彼女の腰は、そのまま、ぐりぐりと動いてきた。
「良いわ。あなたのペニス、わたしの中を掻き回しているわ」
彼女の中へとすっぽりと入り込んだ俺のペニスは、彼女の中で翻弄されっぱなしだった。
モリガン様の腰が、見せつけるように前後へとくねる。
それと同時に、感極まったかのように、モリガン様は自らの乳房を、両手で揉みしだいていた。
俺のモノを咥え込んでいる腰を振り、乳房をこねる姿を見るだけで、俺の視覚は絶頂に近い興奮を覚えていた。
視覚だけではない。
喘ぎ声と、密着する腰の合間から聞こえてくる、くちゅり、くちゅり、という音を受ける聴覚。
二人の体から発する汗と、男女のいやらしい体液の匂いを感じ取る嗅覚。
そしてもちろん、モリガン様の膣内を感じ取っているペニスの触覚。
そこへ、感極まったように、モリガン様は上体を降ろして、俺にキスをしてきた。
唇が触れあい、舌が絡み合い、唾液が混じり合う。
その味は、蜜のように甘く、アルコールのように酔わせるものがあった。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、そして味覚。
俺は、五感の全てを使って、モリガン様を感じ、セックスをしていた。
もしかすると、その表現は正しくないかも知れない。
もはや、五感の一つ一つが、それぞれ一つのセックスをしていて、同時に五つのセックスをしているかのようだった。
しかも、波が重なり合い、より大きな波になるかのように、それらは合わさり、高まり合っていった。
体中がばらばらになるような、それでいて、全ての感覚がペニスの一点に集まったような感覚。
もう、我慢できなかった。
「モリガン様……俺、また……」
「ああ、出して、出して……出しなさい。出すのよ。永久に、出し尽くすのよ」
そうモリガン様が言った途端、まるで生き物の呼吸を止めるために首を絞めるかの如く、俺のペニスはきゅうきゅうと締め上げられた。
「ああ、出るぅぅぅぅぅぅ!」
三度目の射精は、ペニスの根本で起こるのではなく、体の中心で起こったかのようだった。
俺の全身から、精液が溢れ出ていく。
びゅくり、びゅくり
まるで、血が噴き出ていくかのように、俺の精液が溢れ、モリガン様の中に注ぎ込まれていった。
どくん、どくん
その量は、さっきまでに出した分量を合わせた以上に感じられた。
どぴゅり、どぴゅり
俺の精液は、止まるところを知らなかった。
とく、とく、とく、とく
まだ流れ続けている。
ぶしゅぅ、ぶしゅぅ
ああ、気持ち良い。
どろり、どろり
ああ、意識が……
ぐちゅり
吸い取られる……
俺が最後に感じたのは、満足げな笑みを浮かべたモリガン様の顔だった。そんな顔が見えただけで、俺は幸せだった。
もう、どうなっても良いと思った。
俺の意識が、俺の全てが、モリガン様の一部となる。
そう思うだけで、俺は人生最後の絶頂を、そして人生最大の幸福を感じたのだった。
伊藤は、暗いコクーンの中で、意識を現実世界へと戻した。
そして、今の出来事を思い出していた。
彼がモリガンというゲームキャラクターの存在を知ったのは、数ヶ月前の、ネットでのことだった。
サキュバスという設定を知った時に、自分が高校生だったら、もっと興奮できたろうな、と思った。
そして、高校生の意識として、モリガンとセックスしたいと思った。
そういうことが出来るのも、ここのシステムならではのことだった。
さらに伊藤は、電脳空間の中で、死すら体験したのだった。セックスの絶頂は、軽い死亡体験なんて言葉もあるが、伊藤はまさに、それを感じたのだった。
そんなことを思い出しながら、伊藤の意識はまた、量子コンピュータと一体になっていったのだった。
「これで、良いはずだな……」
召喚の呪文を唱え終えた康雄は、体育館倉庫にしつらえた台座の上で横たわる俺を見つめつつ、そう呟いた。
心配そうに康雄に見つめられると、儀式のためとは言え、全裸になっている俺は、ちょっと恥ずかしさを感じてしまう。
しかし、それも仕方がない。何しろ、俺を依り代として、モリガン様を召喚するのだから。
儀式の書かれた魔導書によれば、俺の意識は眠った状態になるとのことだった。
俺がモリガン様の体になるのを実感できないのは残念だが、今の儀式を終えたら、今度は康雄の方が依り代となる約束だから、それも仕方がない。
その時、ひんやりとした体育館の空気とは違った感じが、俺の全身を包み込んだ。
まるでぬるま湯の中にでもいるかのような、ねっとりと体にまとわりつく感じだった。
「うう……」
その途端、仰向けになった俺の目の前に、緑の長髪をなびかせ、頭には小さな翼状の角を生やし、全身はスタイルを見せつけるようなレオタードに包み、背中にはコウモリの羽を生やした女性――モリガン様が現れたのだった。
ただ、その姿は、まるで幽霊のようにぼんやりとしたもので、先にある天井が透けて見える。
ちらりと康雄を見ると、あいつはそれに気づいていないようで、戸惑った表情のままに、俺を見つめている。
俺にしか見えないモリガン様は、体を重ねるようにして近づいてきた。
そして、
「あうっ!」
俺のペニスに、さっき感じた、ねっとりとした空気が、まとわりついてきたのだった。
こんな気持ち良さは、初めてのことだった。
オナニーなんかとは比べものにならないぐらいの刺激が、俺のペニスに絡みつく。
ペニスと同時に、ねっとりとした空気は、俺の体中にも、集まってきていた。
目の前には、うっすらと笑みを浮かべるモリガン様の顔が見える。
俺はまるで、包み込まれるようにセックスをしているのだ、と感じた。
腰ががくがくと震えたかと思うと、俺は早くも射精の予兆を感じていた。
「あぁ、出るぅぅ!」
俺は、全身をねっとりと包み込むモリガン様に向けて射精したつもりだった。
ところが、ペニスから出て行ったはずの精液は、壁にはじき返されたかのように、俺のペニスへと逆流してくるのだった。
俺の体へと流れ込んできた精液は、ペニスの根本に止まるだけでなく、そこから血管を、神経を、細胞を通じて、俺の全身へと流れていくように感じられた。
「あぁぁ……」
思わず漏れた俺の声は、いつものものとはどことなく違っていた。
変化はそれだけではなかった。
全身の皮膚が、まるで日焼けをした後に皮が剥けるかのような、何かがこぼれ落ちていくような感じがする。
全身を流れている精液が、胸元に集まってきた。
どくん、どくん、と血流に合わせて、胸の内側からノックをするような感じがしたかと思うと、胸元が膨れていくのが感じられた。
仰向けになったままの俺からは、その変化を見ることは出来ないが、表面積がだんだんと広くなってくるのと同時に、みっしりとした密度のある重みが、俺の胸元へと掛かってくる。
海水浴に行って、砂風呂をしようと、胸の部分に太陽に晒されて暖かくなった砂を乗せられているかのようだった。
やがて、その変化は俺にも見えるようになった。
上を向いたままだと言うのに、視界の下には、円やかに膨らんだ二つの双丘と、その先に添えられたピンク色の乳首が見て取れた。
仰向けになっていても、綺麗な形を保っているその様子は、プリンやゼリーを思わせた。
その一方で、股間にも変化が起こっていた。
射精し、逆流されたペニスが、徐々に小さくなっていくのが感じられる。途中までは、いつものオナニーの後に、縮んでいくのと同じ感じだったが、それは止むことはなかった。どこまでもどこまでも小さくなっていく。同時に、その下にぶら下がっている睾丸も、ゆっくりと萎んでいくのが感じられる。とうとう、ペニスの感じは無くなり、代わって、股間の上に、小さな突起が作られたのが感じられた。
ペニスも睾丸も無くなってしまった股間へと、さっきから感じている、ねっとりとした空気が入り込んでくるのが感じられた。
その先端が、鋭利な刃物のように尖ったかと思うと、俺の中へと、ずぶずぶと入ってきた。
股間の先端から、体の奥に掛けて、ぴたりと閉じたスリットが刻まれていくかのようだった。
そんな侵入がしばらく続いたところで、ふいにその動きが止んだ。
終わったのか、と思ったら、今度は、まるで体の中に、何かを埋め込まれるような感じがしてきたのだった。
スリットの奥に小さな空洞が作られたかと思うと、そこから左右に分かれて、何か丸いものが添えられる。
異物のように感じたそれは、一瞬にして、俺の器官の一部へと変わった。
俺の頭の中に、子宮と卵巣、という文字が浮かぶ。
変化は体の内側で起こるだけではなかった。
ねっとりとした空気が顔を包み込んだかと思うと、まるで顔面マッサージを受けているかのように、目や口、鼻や頬が、ぐにゃりと形を変えさせられる。
それに合わせて、髪の毛が伸び、さらりとした流れるような感触が、俺の後頭部と肩をくすぐっていく。
首から下にも変化は起こっていた。腰の部分は、まるでコルセットでも付けられたかのように締め付けられたかと思うと、一瞬にして、それに合った形へと変わっていく。
太ももに、柔らかい筋肉が付き、手足の先が、ほっそりと、綺麗に整えられていくのが感じられる。
どうやら変化は終わったようだ。
ただ、魔導書にあったように、意識がモリガン様になるのではなく、俺の――健のままだった。
これまで、呼吸をするのを忘れていたかのように、俺は大きく息を吐いた。
「あふ……」
その声は、艶っぽい女性――モリガン様の声そのものだった。
ただ、体もそうなっているのかは、俺には分からない。
尋ねようかと思った時、体中に風が吹いた。
それはただの風ではなく、そこには無数のコウモリが飛んでいた。
それは、俺の体へと貼り付いたかと思うと、その触り心地を変えて、レオタード状になっていくのが感じられた。
同時に、露わになっていた太ももが、ストッキングのような生地に包まれていくのが感じられる。
モリガン様が身につけている、コウモリ柄のストッキングを思い出した。
どうやら体も自由になったようなので、俺はゆっくりと上体を持ち上げた。
それを待っていたかのように、背中の方に変化が起こった。
肩甲骨の辺りが盛り上がったかと思うと、そこから何かが生えてきた。
どうやら、翼が生えてきたらしい。
背中から伸びる翼は、その感覚こそ広々としたものだったが、重さは無く、まるで空気のように軽く感じられた。
それと同時に、頭上から角が生えるような感じがしたかと思うと、それは小さな翼を形作った。
「ふう……」
どうやら俺は、モリガン様の姿になったらしい。
しかし意識は俺のままなので、召喚は半分成功、半分失敗と言ったところか。
このことを、康雄に告げようか、と迷いながら彼の顔を見ると、
「モリガン様……」
興奮したような面持ちで、そう言ってくるのだった。
その言葉を聞いて、俺は考えた。ここは、康雄のためにも、モリガン様のふりをした方が良いのではないか、と。
そして俺は、
「わたしを召喚したのは、あなたね」
極力、平静を保ちつつ、俺はそう呟いた。
「は、はい。俺と、依り代になった健の二人でです。
あの……健の意識はどうなっているんでしょうか?」
どうやら、俺のことを心配してくれているようだ。
よし、ここは一つ、徹底的にモリガン様のふりをすることにしよう。
「心配しなくて良いわ。この体の元の持ち主は、眠った状態になっているから。
わたしが消えれば、また体は元に戻るし、意識も回復するわ」
「そうなんですか。それは良かった」
安心したかのように、康雄は呟いた。
そんな彼をからかうように、
「そんなに、この体の元の持ち主のことが心配。もしかして、男同士で恋人同士だったとか?」
そう聞いてみた。もちろん、俺と康雄はそんな関係ではないが、そう言った方がリアリティがあるだろうからだった。
「そ、そんなことは無いです。俺も健も、モリガン様一筋ですから」
康雄の言う通りだった。二人とも、モリガン様に会いたい一心で魔導書を探り当て、そして依り代として俺の体を使ってまで、この儀式をしたのだった。
そんな康雄の期待を裏切らないように、俺は努めてモリガン様のように振る舞おうとした。
そう思うと、これまでに感じたことのない気持ちが湧き起こってきた。
トランクス一枚で目の前にいる康雄の姿から、まるで美味しそうな料理を目の前にしているような気持ちを感じるのだった。
これって、体がモリガン様――サキュバスになったから、康雄から精気を吸おうとしているのだろうか。
そんな気持ちを確かめようと、
「ふふ。嬉しいことを言ってくれるわね。それじゃあ、その気持ちを体で示してもらおうかしら」
俺は机の上に立ちあがり、床へと飛び降りた。わずかに背中の翼が動き、俺の体は、まるで宙を舞うかのように、ふわりと床へと着地したのだった。
俺は康雄の間近へと立ちはだかる。
――美味しそう。
俺の意識とは別の感情が、俺の脳裏に浮かび上がる。
ちらりと下を見ると、康雄のトランクスは、はち切れんばかりに盛り上がっているのが見て取れる。
俺は、導かれるようにして、自らの指先を、その部分へと近づけた。
指先へと、トランクス越しにも、びくり、びくり、と脈打つペニスの熱さと固さが感じられる。
「あっ!」
驚いたように、康雄は声を上げる。
――うふふ、嬉しい。
またしても、俺の意識とは違う感情が湧き起こる。
「ふふ。こんなに固くしちゃって」
俺は指先を動かして、その形をなぞっていった。
「ああ、モリガン様……」
なんとか余裕を保ったように見せつけている俺とは対照的に、康雄は震えるような声で小さく呻く。
俺の視線と意識は、指先が触れる部分へと集中していた。
――ああ、早く味見をしてみたい。
脳裏に浮かぶ声に従うように、俺は膝立ちになって、康雄のトランクスの前へと顔を近づけて、トランクスへと手を掛けた。
「それじゃあさっそく、あなたの精気をいただくわよ」
料理人が、食器の蓋を開けるかのように、俺はトランクスを降ろした。
俺の目の前に、勃起した康雄のペニスがさらけ出される。
勃起した男のものを直に見るのは、もちろんこれが初めてだが、嫌な感じはなかった。
むしろ、
「こんなにピクピクして、美味しそうね」
そんな言葉が、勝手に漏れるのだった。
俺は口を開き、康雄のものを頬張った。
「あぁっ!」
頭上から康雄の呻き声が聞こえるのと同時に、俺の口中へと、熱く勃起したものが入り込んでくる。
それと同時に、まるで美味しい料理を口に含んだかのような、満足感が湧き起こる。
――ああ、良いわ。もっと味わいたい。
脳裏の声に誘われるままに、俺は頭を前へとずらし、口中にすっぽりと康雄のものを飲み込んだ。
「ああ、モリガン様……」
舌先に、内頬に、唇に感じられるペニスの感覚は、まるで豪華な料理の味、舌触り、香り、そのものだった。
それを味わおうと、俺は舌先を動かし、亀頭から雁首に掛けてを舐め回す。
男の欲望がこもった熱気と共に、若い男ならではの精気が感じられる。
もはや、料理に例える段階を越えていた。
精気と言う、サキュバスであるモリガン様しか感じられない感覚を、今の俺は感じ取り、味わい、そして楽しんでいるのだ。
俺は、その精気をもっと高めようと、舌先を動かすだけでなく、口をすぼめて、ぴったりとペニスを咥え込みながら、頭を前後に動かして、ピストン運動をした。
それに応えるようにして、康雄の精気が高まっていくのが感じられた。
俺は、ちらりと康雄の顔を見上げた。
そこには、初めて感じる快感の強烈さのあまり、気持ち良さを飛び越えて、困惑すらしているような表情があった。
そんな康雄の表情すら、サキュバスである今の俺にとっては、精気の供給源となった。
口中に精気が広がる一方で、快感と困惑が入り交じった康雄の顔を見ているだけで、まるで真夏の太陽を凝視したかのように、ぎらぎらとした精気の塊が、目に飛び込んでくるのだった。
「ああ、モリガン様……俺、もう……出ちゃいます……」
康雄の声には、快感と困惑に加えて、主を前にした下僕のような屈服感が混じっていた。
俺は内心で優越感を感じつつ、そんな下僕に射精の許しを与えるかのように、口中を激しく動かしつつ、両手を康雄の腰へと回して、ぎゅっと抱きしめる。
「ああ、出るぅぅぅぅぅ!」
その言葉と同時にペニスが大きく跳ねたかと思うと、俺の口中に、どろりとした熱い精液が流れ込んできた。
それは、精気の塊、エネルギーの源、極上のメインディッシュだった。
俺は、むさぼるようにして、ペニスから溢れ出てくる精液を飲み込んでいった。
――ああ、男の精液、最高。
脳裏に響く声は、もはや俺の意識の一部となっていた。
ごくり、ごくり、と精液を飲んでいく度に、食欲と性欲が、同時に満ち足りていくように感じられた。
二つの欲望が、同時に満たされるなんて、サキュバスは羨ましい体なんだな、と俺は思う。
「ああ、俺の精液、モリガン様が飲んでる……」
そうなのだ。俺は今は、モリガン様なのだ。
そんな今の立場を味わうように、俺はさらに精液をひきだそうと、ストローを吸うように、ペニスを吸い立てる。
しばらくして、もう出ないかと思ったところで、俺は、ちゅぱん、という音を立てながら、口を離した。
目の前には、射精したばかりだと言うのに、まだ勃起したままの康雄のモノがそびえている。
「うふふ。あなたの精液、美味しかったわよ。こんなに濃くってどろどろして。まだ口の中にこびりついているわ」
俺は見せつけるように口を開いて、舌先で、口中に残っている精液の残滓を取っては、ごくりと飲み込んでいく。
精液自体の味わいもさることながら、そんな俺の姿を見つめて興奮する康雄の様子も、今の俺にとっては精気の源だった。
「それじゃあ、今度は胸で射精してもらうわよ」
俺の口から、自然と言葉が漏れた。
「え、それって……」
「今の世界じゃ、パイズリって言うみたいね。さあ、床に仰向けになって」
康雄を床に仰向けにさせてから、俺はレオタード越しに大きな乳房を持ち上げながら、勃起している康雄のモノへと添える。
俺の乳房へと、固いモノが挟み込まれる。
乳房で感じるペニスの熱さ、固さ、大きさ、形、そのいずれもが、フェラチオの時と同様に、俺に精気を与えてくれる。
俺は、両手をゆっくりと前後に動かした。
「どう? わたしのおっぱい、気持ち良いでしょ?」
「はい、凄く気持ち良いです。こんなに気持ち良いの、初めてです」
「ふふ、フェラチオも気持ち良いでしょうけれど、胸だって負けていないわよ。それに、こっちの方が、あなたの顔をまじまじと見ることも出来るし、こうやって話をすることも出来るものね」
そうなのだ。今の俺にとっては、康雄の精液だけでなく、その表情や仕草、言葉に至るまで、全てが精気の源なのだった。
「すみません。さっきから俺ばかり気持ち良い思いをして」
「そんなの良いのよ。さっき、あなたが出した精液、凄く美味しかったわよ。それに、サキュバスが精気を吸い取れるのは、精液からだけじゃないのよ。気持ちよくなっているあなたの存在そのものが、精気の塊みたいなものなの」
俺の口から、勝手にそんな言葉が漏れた。どうやら俺はもう、人間としての感覚よりも、サキュバスとしての意識が強くなっているようだ。
「そう、なんですか」
目の前にいる人間――康雄は、戸惑ったように俺の言葉に応える。
見せつけるように、俺は乳房の動きを変えた。
左右の乳房を別々に動かし、擦り上げるように康雄のペニスを弄ぶ。
その拍子に、レオタードの先から、乳首がこぼれ出た。
「だから、こんなことをしても、あなたの精気は吸い取れるのよ」
俺は右手で乳房の先端にある乳首を絞るようにしてから、亀頭の先端へと乳首を押し当てる。
亀頭と乳首の接吻。
それだけで、康雄の精気が高まり、乳首を通じて俺の中へと入り込んでくるのが感じられる。
「モリガン様……俺、また……」
哀願するような顔で、康雄は俺を見つめてきた。
俺は、再び左右の乳房で康雄のモノを挟みつつ、その先端部分を乳房の谷間から出させ、顔を出した亀頭へ向かって、舌を伸ばす。
ちろり、ちろり、と舌を動かす度に、鈴口から溢れ出る先走りの汁が、甘露に感じられる。
「で、出るぅぅぅぅ!」
康雄が叫ぶと同時に、鈴口から迸(ほとばし)った精液は、俺の顔いっぱいに広がり、さらに連続して溢れてくる精液は、乳房へと掛かっていく。
「ああ、すみません」
戸惑ったような表情で、康雄が詫びてくる。
「良いのよ。サキュバスは体のどこでも、精液を吸収することができるんだから」
またしても、俺の口から自然に言葉が漏れる。
その言葉通りだった。
顔と胸に掛かった精液は、まるでスポンジが水を吸収するかのように、俺の肌へと吸い込まれていき、そして同時に精気として変換されるのが感じられる。
精液が皮膚へと吸収される様は、まるで皮膚全体が性器になったかのように思えた。
どこまでもいやらしく出来ている、サキュバスの体だった。
頬の一部に、わずかに精液が残っているのを感じた俺は、人差し指でそれをすくい取り、舌を伸ばしてぺろりと舐める。
精液を直に吸収した顔と胸は、まるで熱を帯びたかのように、エネルギーに満ち溢れていた。
顔の皮膚は、さっきまでよりも滑らかな感じになっていて、乳房も、水を吸って膨れたスポンジのように、一回りは大きくなっているように見えた。
「ふふふ。それじゃあ、いよいよ本番ね」
精気に満ち溢れ、敏感になっている頬を康雄のモノに擦りつけてから、俺は康雄の上へと跨った。
上を向いているペニスへと腰を近づけつつ、俺の股間をわずかに覆っているレオタードを横にして、その中に包まれていた性器を露わにした。
開放された性器が、深呼吸をするかのように、ひくひくと動くのが感じられる。
早く欲しい、ペニスが欲しい、精液が欲しい、そんな叫び声が聞こえてくるかのようだった。
「それじゃあ、いくわよ」
ゆっくりと腰を下ろしていくと、熱く、ひくひくと蠢いている口へと、丸いペニスの先端が当たってくる。
途端、ずきりとした刺激が、膣口から脳裏にかけて響く。
性器同士が触れただけで、精気が流れ込んできて、女の――サキュバスの快感へと変化していくようだった。
ゆっくり、ゆっくりと、腰を下ろしていく。
亀頭が飲み込まれ、えらばった雁首が、乱暴に押し入るように、膣口を広げてくるのが感じられる。
「ああっ!」
感極まったような声が、康雄の口から漏れる。
そんな呻き声を聞くと、俺は、サキュバスとしての優越感と高揚感を感じてしまう。
――わたしはモリガン。人間の精気を吸う、サキュバス。
そんなことを考えながら、眼下にいる人間の精気をもっと吸おうと、腰をずぶずぶと下ろしていく。
それに合わせて、ペニスが膣内へと入ってくる。
雁首が、ウネウネと動いている膣襞を擦り上げながら、ぐんぐんと中へと押し入ってきたかと思うと、やがて、膣の先端が、こつん、とノックされるような感じがした。
――ふふ、子宮口に、ペニスの先端が当たって、気持ち良い。
男には無い、女だけの器官へとペニスが当たってくる感覚は、違和感と、それを上回る快感だった。
アダルトサイトによると、開発された女性器は、子宮口で快感や絶頂を感じると言うが、この体――モリガン様の体は、まさにそれだった。
まるで、体の内側にある敏感な場所を、尖った針の先端で突かれているかようのだった。
それに合わせて、全身が、びくり、びくり、と震えつつ、口からは溜息が漏れる。
感じているのは、子宮口だけではない。
膣内にすっぽりと入り込んだペニスが、雁首を膨らませ、陰茎を脈打たせながら、膣襞全体を揺さぶってくる様は、体中を、掻き回されているかのようだった。
密着した股間の合間では、クリトリスが時折、康雄の皮膚と擦れて、びりびりとした電気のような快感を与えてくる。
快感は、それだけではなかった。
膣の中へと、すっぽりと入り込んだペニスからは、フェラチオやパイズリの時とは比べものにならないほどの、精気が流れ込んでくるのが感じられる。
そんな快感をもっと味わおうと、腰を密着させたまま、腰をぐりぐりと動かして、膣に入り込んだペニスを搾り取るようにした。
「良いわ。あなたのペニス、わたしの中を掻き回しているわ」
歓喜と満足に満ちた、モリガン様の声が、口から漏れる。
腰のグラインドに合わせて、全身が震え、長い緑の髪の毛がなびき、二つの大きな乳房が揺れる。
両足で体のバランスを取りつつも、両手を乳房へと当てる。
ほっそりとした手では握りきれないほどに大きな乳房の感触が、手のひらへと伝わってくる。
果実を潰し、果汁を搾り取るように握りしめると、じんわりとした快感が、乳房から全身へと広がっていく。
もっと、もっと精気が欲しい。
そう思うなり、上体を降ろして、眼下にいる康雄へと口づけをした。
口中に、精液のねっとりとした精気とは違う、運動中の激しい呼吸を連想させるような荒々しい精気が感じられる。
膣でセックスをしながら、口でもう一つのセックスをしているかのようだった。
口だけでなく、頬や首筋にもキスをして、全身から溢れる精気を吸い、快感へと変えていると、
「モリガン様……俺、また……」
苦しそうに、康雄が呟いてきた。
「ああ、出して、出して……出しなさい。出すのよ。永久に、出し尽くすのよ」
そう言いながら、わたしは膣襞へと意識を集中させ、人間の女とは比べものにならないぐらいの、サキュバスならではの膣襞の動きを見せた。
それと同時に、精気を糸状にして、尿道へと通し、精液の流れを促す。
「ああ、出るぅぅぅぅぅぅ!」
人間が叫ぶのと同時に、わたしの中へと、精気に満ちた精液が溢れ込んでくる。
まるで噴水のように溢れ込んでくる精液は、一瞬にしてわたしの精気と快感へと変わっていく。
熱い湯を、全身に浴びるかのように、心地良さが広がり、体力が高まっていく。
わたしの膣には、人間の普通の射精量を超える精液が、まだ流れ込んでくる。
まだよ、まだよ。
もっと、もっと。
良いわ、良いわ。
そうよ、そうよ。
精液だけでなく、精気も、魂すらも吸い尽くす。
それがわたし、モリガン・アーンスランド。
もう、この人間も終わりみたいね。
蝋燭が消える瞬間に大きく燃え上がるように、人間の精気も、最後の瞬間にはひときわ大きくなる。
ああ、来る。来るわ!
最後の一滴が、わたしの中に入ってくるわ!
途端、わたしの体は精気に満ち溢れ、同時に快感でいっぱいになる。
「あはぁぁぁぁーーーー!!」
眼下にいる、獲物としての役割を果たし終えた人間を見つめつつ、わたしは満足げな笑みを浮かべたのだった。
伊藤は再び、コクーンの中で意識を現実世界へと戻した。
エンディングはランダムとしていたが、まさか途中から意識がモリガンに乗っ取られるとは思わなかった。
健の意識が、だんだんとモリガンのものへと変わっていく。
電脳空間で体験中には気づくこともなかったが、今となっては、その経緯をありありと思い浮かべることが出来る。
死ぬほど気持ち良いサキュバスとのセックスと、人間の精気を搾り取り、快感へと変えていくモリガン。
二つの感覚が、重なり合う。
余韻に浸っていると、ハッチが開き、明かりが入り込んできた。
外には、黒服の男が立っていた。
「いかがでしたか?」
「ああ、凄く良かったです」
伊藤の返事に、そうでしょう、というような顔を黒服の男はした。
「こちらは、今回のプレイを保存しました、ホログラム・ディスクです。どうぞお持ち帰り下さい」
男が、コンパクトディスクサイズの円盤を渡してくる。
伊藤は、家に帰って、さっそくこれを再生しようと思いつつ、今度はどんなプレイをしようかと思い浮かべたのだった。
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この作品は、
「月華のサイト」http://gekka3.sakura.ne.jp/gekka.html
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