ミダス・グローブ

作:京介



久保恭介は、逸る心を抑えきれないままに、通販で購入したものを箱から取り出そうとしていた。
箱の中に入っているもの――ミダス・グローブ――は、それを付けて自分の身体に触っていくと、望みの女性に変身出来るTSグッズだった。
いちいち全身に触っていかなければならないのは面倒なのだが、それでも恭介がこの商品を選んだのは、調整機能の文字とその説明に引かれてのことだった。

調整機能:調整したい箇所を触りながら念じることによって、髪の毛の色や胸の大きさを任意に調整する事が出来ます。
「胸の大きさを任意に調整」――この文字は恭介の頭で、「望むままに巨乳に出来る」と置き換えられていた。
この恭介、常日頃から、巨乳に顔を埋めながら死にたいと公言していたり、「F」とか「G」とかの文字があると、そちらに目が行ってしまうぐらいの巨乳好きであった。
ようやく包みをほどいた恭介は、中に入っていたものを取り出した。それは通販のカタログ写真では良く分からなかったが、女性がドレスを着たときに付けるような、右腕全体をすっぽりと包み込むような、白い手袋だった。
手首に当たる箇所には、変身したい相手の映像を取り込むカメラが、腕時計のように取り付けられていて、恭介はさっそくそのカメラで画像を取り込み始めた。
恭介が手にしていたのは、『酒井若名写真集』だった。
水着での全身写真が写っているページを開いてカメラに収めるなり、恭介は手袋を右腕にはめた。すると、右手が締め付けられるような感じになるや、実際に右手が縮んでいった。その変化が終わった時には、恭介の目の前には一回り小さな、女の子の腕があった。
「へえ」
感嘆の声を上げてから、左腕をさすってみると――まるで手袋の白さが移ったかのように、触れられた肌の部分が白く変わっていたのだった。
しかも、色が変わっただけではなく、手袋を通して伝わってくる肌の感触も変わってきていた。
「やった!」
本当に身体が変化したことに狂喜乱舞した恭介は、着ていた服を全て脱ぎ去り、写真集を手に持って、部屋にある鏡の前へと座った。
鏡の中には、写真集を広げ、あそこを勃起させている、間抜けな自分自身の姿があった。しかし、これからやろうとしていることを思うと、まったく気にならず、むしろ変化前を知っている方が、変化後を楽しめるとすら感じていた。
恭介は、まずは右手を左胸に当ててみると、今にも爆発しそうな鼓動が伝わってきた。その手をゆっくりと離すと、そこにはさっきの腕と同様、白く変化した肌と、男に比べてピンクがかった乳首が見えた。
言い聞かせるように小さく頷いてから、恭介は再び左胸へと手を当てた。先ほどよりも心持ち柔らかさを感じながら、今度は手を離さずに、胸の上で小さな円を描くように動かしてみた。
だんだんと、手のひらへと抵抗が感じられるようになった。それはまるで、初めは固かった粘土が、触っているうちに柔らかくなって指先に触れてくるかのようだった。
指先で感じていた抵抗は、鏡の中でも確認できるようになってきた。押しつけている手のひらの周りに、肌の凸凹が見て取れた。
さっきから感じていた、手の動きへの抵抗は、柔らかさへと変わっていた。スライムのようなものを胸に当てて転がしているような感じだった。
一様に膨らんでいるような胸も、そのうちに中心の部分が手を押し上げているようになってきたので、まっすぐにしていた指を折り曲げてアーチ状にしてみると、胸の膨らみにぴったりとフィットした。
鏡にも、胸ではなく乳房を触る手袋が映し出されていた。そこで恭介は手を止めて胸から離して、鏡を見つめていた。
鏡に映る恭介の左胸は、ふっくらと丸くなっていた。その形はややいびつなものだったが、そこには小ささではなく、まだまだ膨らむ余地が感じられた。
ただ、左胸だけに乳房があるものの、右胸は男のままで、アンバランスなのが嫌だった。そこで恭介は、少し触りづらいものの、右胸に手を伸ばして、同じように触り始めた。
左右が同じ大きさになったところで鏡を見ると、女の子の乳房を備えた恭介の裸身が映っていた。
男の体に女の乳房が付いているのは、さすがの恭介でも良い気分ではなかった。仕方がないので、しばらくは鏡を見ずに胸だけを見つめることとして、再び左の乳房へと手を伸ばした。
手のひらにすっぽりと納まる乳房は、さらに大きさを増していった。触る動作は、だんだんとなぞる動作になり、そして揉む動作へと変わっていった。
もう片手に納まりきれないぐらいになった辺りから、くすぐったさを感じるようになっていた。心地の良いくすぐったさを感じているうちに、胸を揉む状態から、胸を持ち上げる状態へとなっていた。
白い手袋の上に、丸い乳房が載せられている。その形を探ろうと、手を乳房の上に載せると、支えになっていた手が外れたせいか、ずしりとした重さが伝わってきた。手で持つ分にはさほど重いと思えなかったのだが、慣れない場所からの重さは、やけに強く感じられた。
恭介は、触る手のひらをわずかに降ろし、乳房の頂点である乳首へと、指先を伸ばしてみた。その刹那、触られた乳首からは、敏感な刺激が感じられた。それは、男の時に例えれば亀頭を触ったかのようだった。乳房とは対照的なこりこりとした固さと、ストレートな気持ちよさを味わっているうちに、恭介の乳首はわずかに勃起した。
「これって――この手袋のせいじゃないんだよな」
乳首が勃起するという、女の体特有の現象を体験した恭介は、照れ隠しをするように、そう呟いていた。
いつしか、恭介の左乳房は、目の前にある写真集とほぼ同じ大きさになっていた。写真に比べるとやや広がって見える気がしたが、それは水着を付けていないからだと瞬時に判断した恭介は、右手を乳房の先端に押し当てて、すくい上げるように軽く持ち上げてみると、写真集で見たのと同じ曲線美が姿を現した。
恭介は、にやりと笑ってから、手袋をした手を再び左の胸へと押し当て、同じように触っていった。まさに、胸は揉まれると大きくなる、の言葉通りにだんだんと膨れていく右乳房を、恭介は目測でサイズを測りながら見つめていた。
やがて、左右の乳房が同じ大きさになった。左右で形と大きさの揃った乳房を眺めるのは格別だった。さらに恭介は、手袋をしていない左手で乳房を触ってみた。そこからは、手袋越しとは違う、触ると中に指が入ってしまいそうな柔らかさが感じられるのだった。
両手で乳房を押さえ、その柔らかさにある弾力を、目と手で感じていた恭介は、乳房の谷間の先にあるものに目が行った。
そこには、すっかり勃起したものがあった。さらに鏡を見れば、自分の乳房を揉みながら、にやけた笑みを浮かべる恭介の姿があった。
恭介は仕方無しに、胸を触るのは中断して、全身を先に変えることにした。
まずは顔からだった。手始めに鼻をつまんでみると、潰されるようにこじんまりとした、整った鼻に変わった。形だけでなく、毛穴の汚れも感じられない、きれいな鼻だった。
次は口だった。触っていくと、カサカサとした感じがなくなり、しっとりとした手触りへと変わった。
目を閉じて擦(こす)るようにしてから開いてみると、彼女の瞳が恭介を見つめていた。触れていた指先をわずかに上げて眉毛をなぞると、ゆるやかなカーブを描いた。
これで、顔のパーツは彼女と同じになったはずなのだが、輪郭は男のままなのでやけに顔が大きく見えた。恭介が頬に手を当てて顔を押しつぶすようにすると、それにあわせて顔が縮まっていき、肌の感触もしっとりとしてきた。顎(あご)を左右に動かしてみると、一回り小さくなったのは、動かせる範囲が狭くなったように感じられた。
鏡を見つめると、写真集と同じ笑顔を浮かべた彼女の顔があった。頬に両手を当てて、押し当てたり、頬を引っ張ったりしてみると、写真集には無い、それでも可愛い彼女の顔が映っていた。
恭介は、髪の毛に手を伸ばして、手櫛で整えるようにすると、色が黒から茶色へと変化し、長さも写真集と同じく、眉毛にかかる程度になった。手を横へと回し撫でていくと、だんだんと伸びていって、男に比べて柔らかい髪の毛が、軽く肩をくすぐった。
体に移ろうかと思ったところで、恭介は耳を触り忘れているのに気づき、左右の耳を交互に撫でた。撫でるたびに、小さく、柔らかく変わっていくだけでなく、だんだんと敏感になっていく様子は、だんだんと敏感な女の子へと変わっていく様を思い起こさせた。
耳から指先を降ろした恭介は、喉がまだだったことに気づいた。顔を上げ、喉を触ってみると、そこには喉仏があったが、押し込むようになぞってみると、だんだんと小さくなり、女の子の喉へと変わった。
恭介はふと思い出し、声を出してみた。
「あー、あー」
予想通り、喉仏のなくなった喉から出る声は、女の子の、それもラジオで聞くのとほとんど同じ、彼女の声だった。
「今日は、恭介君だけに、わたしの全てを見せて、あ・げ・る」
恭介が言おうとした言葉が、そのまま彼女の声となった。
高揚感と気恥ずかしさを感じつつ、手を左肩へと降ろし、肩を揉むようにしてみると、小さくなった右手に比べて大きく感じられた肩も、だんだんと小さくなり、手のひらにあうようなサイズになった。そのまま、体を洗うように右腕を触っていくと、さっき試しに触ったのと同じように、肌の色と感触が変わっていった。
ほくろの位置すら変わっていくのを楽しみながら、手を洗うように左手を撫でていくと、指先は細く小さくなっていった。その指先には、縦に細長い女の子の爪が飾られているのを、まるでアクセサリーを見るかのように、恭介は見つめたのだった。
すっかり女の子らしくなった腕を、二度三度折り曲げてみると、力こぶの出来ない腕は華奢のようにも、可愛らしくも見えた。
それから、もう触る必要の無いはずの胸を数回触ってから、恭介は右手をお腹へと当てた。
磨くように左右へ撫でてみると、だんだんとウェストが引き締まってくるのが感じられた。男に比べれば二回りも小さくなったように見えたが、お腹に感じられる柔らかさは、健康的なやせ具合のように思えた。
小さいおへそへと指を入れて弄んでから――恭介の腕が止まった。
視線の先にあるのは、上半身だけ女性になった自分の姿を見てすっかり興奮したのか、さっきよりも力強く勃起したものが、先端を濡らしながら脈打っているのだった。
どうやって扱うか迷った恭介は、とりあえず男の時のように扱(しご)いてみることにした。
手袋のざらざらした感触に、勃起したものは大きく跳ねる。見慣れた自分自身のもののはずなのに、恭介は女性が初めてそれに触るかのように、おずおずと上下に動かしてみた。
すぐさま、恭介に男としての快感が伝わってきた。と同時に、手袋に包まれたものは、小さくなっていったのだった。しかしそれは、射精の後で萎えるのとは違い、固さと形を保ったままのものだった。その上、小さくなるにつれて、そこから沸き起こる快感は、比例して強まっていくようだった。
だんだんと強まる快感をいつまでも味わいたかったが、すでに手の中に収まるほどに小さくなったものを擦るのは不可能だった。それでも撫でるように触っていくと、快感はさらに強まっていった。ただ強まるだけではなしに、別の快感に変わっていくような、そんな感じだった。
なおも触ろうとする恭介の指先は、ぶら下がっている袋へと触れ、それをきっかけに、そちらでも変化が起こった。袋の中にあるものが、体の中に入り込んでいく――そんな感じだった。
「あ、あ……」
今までに感じたことのない感覚に、恭介は思わず声を上げた。もちろんその声は、女の子としてのものだった。
体の外にあったものが、体内へと押し入ってくる。その通り道には体に穴が開けられたかのような感じが残る。
体の中に入ってきたものは、やがて一カ所に止まったかと思ったら、今度はそこで動き始めた。慌てて下腹部の辺りに手をやると、脈打つように何かが動いている。それが何かは、恭介に見当はついた。ただ、それが自分の体内にあると思うと、胸が大きくなったのと同じぐらい衝撃的なことだった。
下腹部での動きが止まった。
ふと股間を見ると、さっきまであった男のものはすっかり姿を消し、変わって女性の複雑なものが備え付けられていた。
その割れ目がわずかに濡れているのを見た恭介は、男のものの先端が濡れていたことの名残かと思ったが、その色も量も違っていた。
触ってみようか……そう思ったものの、恭介は全身の変化を先にすることにした。前に添えていた手を後ろに回し、大きさを調べるように撫でていった。大きさは、さほど変化しなかったようなのだが、形と柔らかさは明らかに違っていた。なで回す指先からは、無骨な男とは違う、流れるような曲線が伝わってくる。
右足を持ち上げて、ストッキングを脱ぐかのように右手を這わせて降ろしていくと、生えていた毛は肌に吸い込まれるように消えていき、曲線のはっきり現れた太股、ふくらはぎ、くるぶしが姿を現していった。
左足も同じようになで下ろしていって、最後に両足を撫で、一回り小さな足になったところで、一カ所の残すことなく、恭介の体は、写真集と同じ彼女の体へと置き換わったのだった。

恭介は立ち上がって、全て彼女と置き換わった全身を鏡に映してみた。
写真集で見慣れた彼女が、美しい全裸を惜しげもなく晒(さら)している。
若さによって下着の支えなしでも曲線を保っている自らの乳房へと恭介が手を伸ばすと、鏡の中にいる彼女も、同じように手を動かし、支えるように乳房を持ち上げていた。
手のひらに、ずしりとした重みと柔らかさが感じられる。
乳房からは、細い指先が押し当てられ触ってくるのが分かる。
乳房を支える両手を上下に動かし、その感触を味わってから、今度は手のひらを左右に動かしてみた。
鏡の中では、豊かな乳房が左右に動く。恭介の思うままだった。
恭介は、支えた手のひらを、ゆっくりゆっくりと握っていく。すると、柔らかい乳房は、手のひらを埋め込もうとするように自在に形を変えていくのだった。
柔らかさ、滑らかさ、重さ、弾力、形――写真集からは感じることの出来ない彼女の胸を、恭介は味わっていた。
乳房を味わう恭介に、新たな感覚が沸き起こった。
触ることに夢中で気づかなかったのだが、触られる乳房からは、まとわりつくような指の動きが感じられるのだった。
それは、肌を触られているのと、そう違いはないものの、男とは違う敏感さは、自分の胸にある乳房を触っているだけなく、同時に触られているのだ、と恭介に実感させるのには十分なものだった。
手のひらは、休むことなく動く。
乳房の下に添えられた手のひらが上に動いていくと、支えを失った乳房の重みが、肩と胸に沸き起こった。
重さすらも心地よさに感じながら、恭介の指先は丸さの頂点にある、乳首へとたどり着いた。
「ん……」
体が変化する途中で感じた心地よさ、気持ちよさが、再び沸き起こる。
その形をなぞるように人差し指と親指で摘んでみると、もっと触って欲しいとばかりに、乳首は固くなり、形をはっきりとさせた。
恭介の口からは、彼女のため息が漏れる。甘さの混じった声色を聞いていると、声を通じて耳の奥をくすぐられているように思えてきた。
指に触れられた乳首から来る刺激をさらに強くしようと手を動かした拍子に、それまで乳房を支えていた手のひらが離れた。
全ての支えを失った乳房の重みが、二本の指に摘まれていた乳首の一点へと集まった。
乳房の重みは乳首を引っ張る役目を果たし、恭介にふいの刺激を与えたのだった。
「あっ!」
自分でするのとは違う、予想しなかった刺激に、恭介は思わず声を上げる。
予想しなかった刺激は、予想を超えた刺激であり、快感だった。
恭介は、その刺激をさらに味わおうと、両の乳首を指先で摘み、体を左右に揺らして乳房を揺らした。
「あはっ……」
敏感な場所を引っ張られる痛みがそのまま快感へと変わり、恭介は声を上げながら顔を上げると、目の前には、乳首を摘み乳房を揺らし快感を貪っている彼女の姿が見て取れた。
「すごく、エッチだ……」
目の前でそんなポーズを取る彼女に聞かせるように、彼女にそんなポーズをとらせている自分を確認するように、そう呟いてみた。
「もっと、エッチに……」
そう言って恭介は、左右の手のひらを、右の乳房へと集めると、大きな乳房は女の子の両手で持つのがちょうど良いように思えた。
左の手のひらを乳房の下に置き、右の指先を乳首に添えて、上へと誘導しながら、恭介は同時に頭を降ろしていった。
目の前に乳房が迫ってくるのを眺めつつ、恭介は舌を伸ばし、その先にある乳首を舐め上げた。
乳首へ起こった、指とは違う感触に、恭介の背筋が震える。
目を動かして鏡を見ると、彼女は求めるように舌先を乳首へ伸ばしながら、上目遣いにこちらを見つめているのだった。
そんな彼女を見つめつつ、恭介はさらに舌を動かした。その度に背筋に刺激が走り、鏡に映る彼女の顔には、にやついた笑みが崩れ、陶然とした表情が現れ始めていた。
舐めるだけでは飽きたらず、痼(しこ)った乳首を恭介は口にくわえた。
指とは違う、四方八方が柔らかいもので包まれる感触に、恭介はくぐもった声を上げていた。
口元にまで届く自らの乳首を、唇で挟む、歯で甘噛みする、舌で舐めあげる……その度に乳首は違った快感を沸き起こしていったのだった。
乳首をいじっている鏡の中の彼女を見ているうちに、小さな乳首だけではなく、乳房全体が欲しくなった。
恭介は、乳房の柔らかさを味わおうと、さらに乳房を持ち上げようとしたのだが、これが限界だった。
しばしのまどろっこしさを感じてから――調整機能を思い出した恭介は、乳房から手を離し、鏡を見つめた。
そして、手袋をした右手を再び乳房に添えてから、この大きな乳房がさらに大きくなるのをイメージしながら、ゆっくりと触っていった。
すると、まるで風船が膨らむように、乳房が大きくなっていくのが分かった。手を触れていない左の乳房に比べると、その大きさがよく分かった。
カップにして二段階は大きくなったぐらいのところで、恭介は手袋を左の乳房へと移し、同じように触っていき、大きくしていった。
膨らんでいく乳房が、右の乳房に擦れるのが伝わってくる。すっかり敏感になっていた乳房の中で、中心から周囲へ何かがあふれ出ていくのを感じつつ、恭介は自らの乳房が大きくなること自体に快感を覚えていた。
左右の乳房が同じ大きさになったところで、恭介は手の動きを止めた。
鏡の中には、誰よりも大きな乳房を身につけた、彼女の姿があった。
一つ一つの大きさは、もはや頭よりも大きく、二つの乳房は真ん中でぶつかり合い、下着を付けずとも胸の谷間がはっきりと出来ているのだった。
大きくなっても整った形を保ったままに並ぶ乳房は、ゲームやアニメに出てくる巨乳を思わせるものだった。
悪く言えば現実離れした光景であったが、恭介にとっては夢のような光景に思えた。
恭介は、大きくなった自らの乳房に頬ずりをしようと、さっきと同じように胸を持ち上げ、顔を近づけていった。
しかし、それでもうまくいかなかった。
大きさから言えば届きそうなのだが、両手でも抱えきれない乳房は柔らかく形を変えていき腕からこぼれ落ちそうになり、うまく動いてくれないのだった。
もどかしく思った恭介の頭に、AVの一場面が浮かんだ。
すぐさまそれを実行しようと、恭介はベッドの上に掛け布団を折り畳んだ。そして、そこに腰を置き、頭が下がるように横になったのだった。
恭介の予想通り、大きな乳房は重力に従い下になった頭へと移動して、恭介の目の前へと姿を現した。
左右には、巨乳の丸みが見せつけるように並んでいる。恭介は両手を伸ばし、乳房を集めるようにして、思い切り頬にこすりつけたのだった。
体のどこよりも柔らかい乳房が、恭介の頬を撫でていく。顔を左右に振ってみると、触れる乳房の柔らかさが心地よかった。
うっとりとした表情のままに、恭介は乳房へと舌を這わす。舌を包み込むような柔らかさを感じると同時に、すっかり開発された乳房は、舌のわずかなざらざらを敏感に感じ取っていた。
視界には胸の谷間を、頬には胸の柔らかさを、腕には胸の大きさを感じると、まるで乳房に包み込まれているかのようだった。
どこまでも広がるかのような乳房を撫でる恭介の指先が、乳首へと触れた。
「んっ!」
乳房という感覚に満足していた恭介に、肉体的な快感が蘇る。
恭介は、視界一杯に広がる乳房の頂きにある乳首に両手を這わし、腕で乳房を抱えながら、乳首をいじった。
精神的な満足感と同じぐらいの快感が沸き起こる。
比べられないぐらいに大きな二つの快感は、全て恭介の乳房から生まれているのだった。
そう思うと、二つの快感が一つにまとまり、さらに大きくなってくる。
「ん……んふっ……」
快感に漂っているうちに、折り畳んだ布団の上に載せた股間が、熱くなってくるのが感じられた。
誘われるように手をやる恭介だったが、男の時の感覚で伸ばした手は、虚しく宙を横切った。
(あ、そうだったんだ)
あるはずのものがないことを実感することで、恭介は自分が女性になっていることを、改めて感じた。
そして、女性の感じる場所へと、指先を伸ばしたのだった。
「んっ!」
股間から神経を通って頭へと、快感が弾丸のようにやってきた。
荒波を受けてしがみつくように、恭介は乳房を抱え込み、顔を思い切り当てつけた。
わずかに触れた指先には、粘着液のようなものがまとわりついているのが分かった。一瞬、自分の精液を触ってしまったかと思ったが、滑らかなそれは、確かに女性の体が出す潤滑液だった。
恭介は、指の動きを再開した。触れていなくてもはっきりと分かるその場所へと指先を伸ばすと、さっきと同じ快感が沸き起こった。
「ん……ん……んん」
小さな突起を濡れた指先でつつく度に、全身を揺さぶるような刺激が沸き起こる。
――乳首と同じぐらい、気持ちいい。
そう思った恭介は、乳首への刺激が止まっていたことに気づき、左の指先を乳首へと寄せた。
「んはっ!」
何度目になるのか分からない嬌声が上がる。
恭介は、左の指先で乳首を、右の指先でクリトリスを同時にいじった。
同時に沸き起こる、異種の快感。男で有れば、体験できないことを、恭介はここぞとばかりに貪(むさぼ)った。
人差し指だけでは我慢できずに、親指を添えてクリトリスをいじると、さらに刺激が沸き起こる。巨乳に隠れて見ることは出来ないが、手袋のために摘みやすい大きさになっているのかもしれない――
そう考えるといやらしさがさらに増し、気持ちよさがさらに増すのだった。
乳首とクリトリスを同時に触りつつ、片方の快感が強いようであればわざと刺激を弱めて、常に二カ所からの快感を味わえるように指先を動かしていく。
その上、左の指先を右の乳首へ移し、左腕では左の乳房を抱え、顔に押し当てるようにして、さらなる快感を生み出していった。
あまりの快感に、体の距離感がおかしくなってきていた。離れた場所にあるはずの乳首とクリトリスが、同じ場所にあるように思えてきたのだった。
そして、それ以外のものは何も感じられなくなってきていた。
快感だけが全てだった。
「はうぅっ!」
恭介は、快感の頂上――女性としての絶頂――を感じたのだった。
(男に比べてはるかに強烈な経験だったけれど、これで終わりか……)
射精の時を思い出し、快感が急激に引いていくのを予感していた。
しかし、恭介の予想を裏切ることが起こった。
快感は頂上に達したまま、その場に留まっていたのだった。
(な、何?)
男の体では理解できないことに恭介は戸惑った。
もがくように指先を動かすと、乳首から、クリトリスから、絶頂と同じ快感が沸き起こる。
(これって、女性は何度でも感じられるってやつなのか?)
終わらない快感に戸惑いつつも、恭介の心はさらなる快感を求めた。
果てしなく続く快感。
終わりのない快感。
永遠に続く快感。
止まない快感。
無限の快感。
続く快感。

恭介は――果てた。

気を失ったのか、眠りについたのか分からない。
しかし恭介は、まだ飽き足りないとばかりに、夢の中でも自らの胸を揉み続けては、大きくなるのを楽しんでいたのだった。

それから数日後、彼は死体で発見された。死亡により手袋の効き目が切れたのか、男の裸身の右手に手袋をした状態での発見だった。
死因は――窒息死――だった。
だが不思議なことに、苦しがった様子はなく、その顔は人生の目的を達成したかのような、満足げな表情だったそうである。

<完>



「あとがき」
作者の京介です。作中の主人公と同じ名前ですけど、気にしないでください。今のところ窒息死したりしていません。でも巨乳は好きです。
ダークというよりもブラック、寝煙草と寝一人エッチには注意しましょう、ぐらいしか言いようのない作品ですので、作品についてあれこれは言いません。
その代わりに、作品中に登場した「ミダス・グローブ」について説明させて頂きます。このミダスというのは、神話に出てくる王様でして、神様に「手で触れるもの全てが金になるようにして欲しい」と頼んだ所、願いは叶えられたが食べ物すら金になってしまい結局元に戻して貰ったという人です。
名前の由来はそこからとったものでして、使い方などについては作品に出た通りです。これを使って作品を書きたい方がいらしたら、私へ連絡無しに使っていただいても結構です。

かしこ。