『闇に潜む者』〜第十 "浸食"
作:月華
「お姉さん」
放課後の廊下を歩いているのは自分だけのはず。そう思って振り返った弥生の先には、一人の少年が立っていた。
最初は、中学生かと思った。だが、この学校の男子生徒と同じ制服を着て校内にいるのだから、当然同じ学校の生徒のはずだ。
「あたしのこと?」
子供に問いかけるような声で、弥生は少年に向かって尋ねた。子供っぽく見えるのも当然で、身長は弥生よりも小さい。髪を背中まで伸ばした弥生と向かい合う少年の構図は、制服でなければ大人と子供が向かい合っているようだった。
「そうだよ。お姉さん、名前は何て言うの?」
「わたし? わたしは藤沢、弥生よ」
無邪気な少年の笑みに釣られて、彼女は小さく身を屈めて少年の視線に会わせてから、自分の名前を口にする。
「弥生さんか。良い名前だね。
でも、もうその名前は必要ないよ。
だって、下僕には名前なんて要らないんだから」
圧迫感を感じさせる声だった。翔太の体を通して働きかける、翔太に潜む者の声だった。
「わたしは……下僕」
確認するような、自分に言い聞かせるような声で、弥生は呟く。
「そう。君は下僕なんだ」
「はい。わたしはあなた様の下僕です」
「僕のことは、翔太様、で良いよ」
軽い口調で、尊大なことを口にする翔太。だが、今の二人の関係にあっては、彼女はその言葉を自然に受け入れていく。
「はい。翔太様」
「素直で良いね。
それじゃあ、これからはずっと僕のために働いてもらおうと思うんだけれど、その前にやらなくちゃいけないことがあるんだよね。
ちょっと、付き合ってもらおうかな」
「はい。かしこまりました」
「それじゃあ、僕の家に来て貰おうかな」
そう言って翔太は、弥生を自分の家へと連れていったのだった。
「裸になって、ベッドに横になって」
翔太の部屋に連れてこられた弥生は、入るなり言われた翔太の言葉に、すぐさま従った。制服と下着を続けて脱いで全裸になるなり、弥生はベッドに仰向けになる。
彼女と同時に服を脱いでいた翔太は、横になった彼女の上へと覆い被さっていく。
「それじゃあ、さっそく」
言うなり翔太は、すでに勃起したペニスを弥生の股間へと突き立てる。そこは、まだ濡れていない。催眠術で翔太の命令に従うとは言え、全裸で横になれとしか命じられていない弥生の体は、そこまで反応していない。
だが、そんなことは構わずに、翔太は腰を突き立てて、彼女の中へと入っていく。
「う……」
肉同士が擦れ会う感触に、弥生は小さなうめき声を上げる。快感によるものではない。単なる苦痛からのものだった。
そんな彼女を見つめながら押し込まれていた翔太のものが、根本まで飲み込まれた。すでに処女は失っているようで、きついながらも途中で妨げることなく奥まで到達していた。
「ほうら。奥まで入っている」
入っている場所を弥生の体に示すように、翔太はペニスに力を入れて、びくびくと動かしてみる。
「はい……奥に届いています」
弥生は、無表情のままに答える。そこには官能は感じられない。ただ、支配されるままにペニスを胎内に受け入れただけだった。
「じゃあ、はじめさせてもらおうか」
言うなり翔太は、ペニスの先端に意識を集中させる。元々敏感だったそこは、さらに感覚を増し、四方から触れてくる弥生の柔らかい肉を感じていく。
「君も、締め付けるんだ。身体の奥に意識を集中して、僕のものを締め付けようとするんだ」
「はい」
暗示と同時に亀頭から撒いた精の影響で、弥生の肉壁はそこだけ独立したかのように、きつく翔太の亀頭を締め付けてくる。
「ふふふ。いい締まり具合だ。ぐいぐいと締め付けてきて、離してくれないや」
言ってから、翔太は腰を引き抜いた。まだ濡れ始めたばかりのそこから抜かれたペニスは、濡れてはいなかった。だが、それだけではなかった。
弥生の体から取り出された翔太のものには、あるはずの亀頭がない。
あるのは、陰茎の部分と、先細りになった先端だけなのだ。
「これでは、様にならないな」
あるべきものが先端にないペニスを見つめてそう呟いてから、翔太は視線の先に力を入れる。すると、先端部分が左右へ広がり、作られたくびれはだんだんと雁首の形を取り始め、あっと言う間に翔太のペニスは元の形を取り戻したのだった。
「いよいよ、本番だ」
翔太は、ベッドに横たわる弥生を見つめながら呟いた。その姿は、さっきまでと何ら変わることは無い。うっすらと瞳を開けながら、全裸のままに仰向けになっている。
だが、胎内には翔太が起き残してきた亀頭が埋め込まれているのだ。
「じっくりと見物させてもらおう」
椅子に座ってから、翔太は彼女の様子を見つめた。
横たわったままの弥生だったが、やがて変化が起こった。
最初の変化は、股間からだった。誰も触れていないのに。割れ目からじわじわと粘液が漏れ始めてくる。初めは割れ目に沿って溜まるだけだった透明な液は、だんだんと量を増しついにはベッドへと流れていく。
「あ……あぁ」
弥生の口から溜息が漏れる。それと同時に、何かから逃げるように腰が左右へと動いた。その動きは、身体の奥に入ったものが与えて来る刺激に釣られてのものだった。
腰の動きが変わる。逃げるような動きから、だんだんと誘うような動きへと。ゆっくりと足を両側へ広げながら、腰を退いては誘い込むような動作を取る。
「あ……そこ……」
誰に触られている訳でもないのに、弥生が声を上げる。触られているはずが無いことは、弥生自身も良く分かっていた。弥生が刺激を感じているのは、体の表面ではなく、体の内側からなのだから。
「や……そこは……」
弥生の股間では、すっかり濡れたクリトリスがピクピクと動いている。リズミカルに前後に動いては、自分自身へと刺激を与えていく。
クリトリスだけではない。何も埋め込まれておらず、左右に閉じた肉壁も激しく動き、お互いに触れあっている相手を、じわりと刺激していくのだ。
誰にも触られていないのに、まるで誰かから刺激を与えられるように、弥生の股間は動いていく。
「あは……あぁ……」
自らの股間から沸き起こる刺激に声を上げる弥生。彼女以外の者から見れば、誰も手を触れられないままに、勝手に股間を濡らし、喘ぎ声を上げて、誰かを誘おうとしているように見えただろう。
だが、彼女の目の前にいるのは翔太に潜む者だけだった。彼は手を出すことはせず、彼女の様子を眺め続けていく。
「あ……」
弥生の腰は動き続けている。背中と足を曲げながら腰を退いては、しばらくした所で今度は腰を突きだしていく。わずかな動きではあるが、ベッドの上に全裸を曝し、誰に遮られることのない今の彼女としては、その動きをはっきりと見て取れる。
「お願い、もっと強く……」
切なげな弥生の声が漏れる。彼女がそう言った途端、変化は彼女の腰へ現れた。前後に振る腰の動きに、左右への動きが加わる。左右に振られる腰の動きは男を誘うようなものというよりも、男になすがままにされているようだった。
腰の動きが伝わるように、弥生の足も動き始めた。長身に釣り合う長い足が、ぐいっと伸ばされる。つま先立ちするように伸ばされた足には、少女のふっくらとした筋肉が姿を現す。
柔らかさを感じさせる太股、丸みを帯びた愛くるしいひざ小僧、形の良い筋肉を少女の皮下脂肪が柔らかく包むふくらはぎ、小さな足に、その先端で広げられる足の指。
伸ばされた足が、一転して折り曲げられる。踵(かかと)に足の重みを押しつけるように膝が持ち上げられ、釣られて腰も持ち上がる。彼女の体重を支える足の筋肉は、さっき以上にその姿を現し、少女の裸身に造形を加えていく。
少女の足が紅潮し、じっとりと汗を浮かべていく。
足と背中で持ち上げられた彼女の腰は、さらに激しく動いていく。
「そこ……もっと深く……」
今や、彼女の頭の中では、誰かに抱かれている自分を想像していた。だが、誰に抱かれているのか、と問われても彼女は応えることは出来ない。彼女が感じる刺激は、体の外からではなく、体の内側から起こっているのだから。
彼女の胎内に埋め込まれたものが、じわりと広がっていく。その一部は膣壁へ、一部はクリトリスへ。さらに一部は足へと。
その広がり様が、そのまま体の内側からの刺激となって、彼女の体を刺激していく。女性の敏感な場所が、内側から刺激されていくのだから、彼女は堪らない。
「もっと……もっと……」
誰に訴えているのか分からないままに、彼女は声を上げる。見えない男に抱かれ、さらなる刺激を求めるように、腰を突き立て、誘う声を上げる。だが、体の内側からの刺激に対しては、どうしようもない。為すすべもなく快感を受け続けるだけだ。
弥生の胎内に埋め込まれたものは、股間を中心にして、足だけではなく体の上へも広がっていく。そして、体の内側から撫でられるような感覚が、股間からへそを通って、乳房へ近づいていくのを、弥生は心待ちに感じていた。
「あ……胸……」
弥生の肩が、ぶるぶると震える。両腕は左右へ広げられ、さらけ出された脇の下が、小刻みに揺れている。そんな上体の動きを表すように、弥生の乳房もゆっくりと動いていた。まだ若く、上を向いても潰れることのない乳房が、体の動きを乳房全体に分散させながら、揺れている。
そんな動きの中で、弥生の乳房に変化が起こった。
肩は震え続けているのだが、その揺れを受ける乳房の揺れが、小さなものになっていく。そして、白かった肌が赤く染まっていくにつれて、わずかに乳房が膨らんでいくのだった。注意していなければ気づかないほどのわずかな変化だったが、下着も付けずにさらけ出されている弥生の乳房に惹きつけられる者がいれば、自然と気づいていたことだろう。
変化は、乳房の大きさに留まらない。乳房の上部に彩られた乳輪が、ゆっくりと大きさを増していく。
さらにその先端からは、乳房に埋もれていた乳首が、少しずつ姿を現していく。初めに乳首の先端部分だけが乳首から離れ、そして釣られるように乳首全体が、引っ張られるように姿を現し、独立した形を持っていく。
「乳首……気持ちいい……」
誰に触られている訳でもないのに、弥生は声を上げる。だが、弥生の乳房は愛撫を感じていた。体の外側からではなく、体の、乳房の内側から。
乳房の表面が触られるのではなく、中から乳房が撫で回される。乳房の中心から、表面へと向かって、乳房が意志を持ったようにうねり、快感を与えていく。それはまるで、わずかに大きくなった乳房の中に、何か他のものが入り込んできたかのようだった。
それと同じことは、乳首にも言えた。入り込んできた何かが、乳首を押し上げ、固くする。中から突き立てられる感覚は、外からの激しく摘まれるよりも、はるかに強烈で、はるかに刺激的だった。
「あはっ! あぁっ」
体の内側からの刺激は、さらに上へと移動する。敏感なうなじが体の内側から撫で回され、口中では舌が内側から舐められる。繊細な耳が内側からくすぐられ、頬を内側から触られていく。
「あ……何……これ……」
体の内側から全身を刺激され、快感を与えられ、弥生の頭は真っ白になっていく。いや、なっていくのではなく、頭の内側から、真っ白にさせられていくのだ。
「あはぁぁっ!」
弥生は、ひときわ高い声で、絶頂を叫んだ。
だが、弥生の意識は終わらない。
体中に、何かが満ちていく……
自分でないものが一杯になっていく……
誰かが体に入り込み、身も心も支配していく……
そんな想いが弥生の頭に浮かぶ。だが、恐怖はない。それを積極的に受け入れていた。
「そろそろ、いいだろう」
腰を上げた翔太は、目の前で悶え続ける弥生の横に立ち、右手を彼女にかざした。そして、頭から足へと手を触れないままに撫でるように動かすと、その時まで激しくくねっていた弥生の体が、ぴたりと止まったのだった。
そんな弥生の全身を、翔太はじっと見つめた。
今や、弥生の胎内に埋め込まれた翔太の体の一部は、全身に散らばり、弥生と一体になっている。それは弥生自身の精と、弥生がこれから集めていく男の精で永遠に保たれ続け、その間は弥生を支配し続けるのだ。
もうこれで、女を支配させ精を集めさせるために、わざわざ女の体に入り込む必要はなくなった。男の体に潜んだまま、体の一部を様々な女にばらまいていき、精を集めさせれば良いのだ。
支配するための憑依など考えずに、己の欲望のままに、気に入った男の体にでも、女の体にでも、自由に出入りをしていけばよい。面白みを感じれば留まり、飽きれば別の体へと移動する。
「その前に、僕の分身を受け入れて、君の体がどれぐらい変わったか、確かめさせてもらおうかな」
そう呟いて、翔太は己の分身を体中に受け入れた弥生に肌を重ねていき、そしてその心地よさを味わい始めたのだった。
第十章<完>
第十一章「蹂躙」へ
メインページへ戻る
この作品は、
「月華の本棚」http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/8113/main.html
に掲載されたものです。