『闇に潜む者』〜第十二章 "触手"

作:月華


翔太の目の前には、全裸になった女が横たわっている。
麻衣に潜んでいた者が、再び翔太の体へと戻り、新たに獲得した獲物だった。
女が誰なのか――確か名前は温子と言っていたが――翔太はほとんど知らない。ただ、街で見かけて術をかけ、ラブホテルまで導いて、全裸にさせた上で、催眠術をかけて眠らせているのだ。
催眠術の効果は浅く、わずかの刺激で目が覚めるはずだった。だが、同時にかけた暗示によって、彼女は手足を動かすことは出来ない。翔太に潜むものに何をされようとも、逃げ出すことは不可能な状態にされていた。
翔太は、自らも全裸になってから、ベッドで横になる彼女の両足を割り、その中へと進み言った。
左右へ広げられた場所は、まだ濡れておらず、翔太のものを受け入れる準備は出来ていなかった。だが、翔太にとってはそれは問題ではなかった。今はまず、新たに身につけた能力を試し、新たな精を得ることが先決だった。
全裸の女を見下ろしてから、翔太は己の右手を見つめた。二度、三度と手を握りしめてから、右手を彼女の乳房へと重ねた。
「ん……」
敏感な場所への刺激に、女はゆっくりと目を開いた。翔太にラブホテルに連れ込まれた記憶は消してある。彼女にとっては、乳房への感覚に目を開いたら、いきなり自分が全裸にされ、男に胸を触られていることに気づいた状態だった。
「や、止めてっ」
慌てて男から逃げようとするが、彼女の体は意識に従わない。全身から力が抜けたように、女は体を動かすことが出来ず、ただ声を上げるのが精一杯だった。
「体が動かない……あなた、あたしに何をしたのよ!」
女の言葉を無視して、翔太は手のひらを動かし、乳房へと愛撫をしていく。大学生ぐらいの彼女の乳房は、柔らかみがあり、嫌がる彼女とは無関係に、翔太の愛撫を受け入れていた。
怯えたままでいる彼女をちらりと見つめてから、翔太は右手に意識を集中した。
「ひっ!」
乳房に重ねられた男の手が変化していくのを見て、彼女は悲鳴を上げたのだった。男の指先が、乳房の曲線に沿って、ゆるゆると伸びていくのだ。その中には骨は入っていないのか、伸びる指はうねうねと曲がりくねり、乳房の曲線に貼り付いていた。
「な、何……それ」
突然の光景に、女は悲鳴を上げる。だが、翔太の指は止まらない。五本全ての指が伸びる内、人差し指と中指を除く三本は、手のひらに覆われた乳房へとまとわりついていった。親指と小指が乳房の麓(ふもと)を取り囲むように伸びていき、手の甲が置かれている場所の反対側で触れあう。乳房を体から切り取るように囲っている親指と小指に加え、薬指が器用に動き、一本だけで乳房の表面をなで回し、刺激していく。
「イヤ……止めて」
彼女の弱々しい声は、顔へと向かってくる二本の指に向けられていた。翔太の人差し指と中指は、じわじわと伸び続け、今や彼女の喉を這い回っている。
喉を触っていた間、視界から隠れていた触手が再び視界に現れる。そして、唇に二本の指が当てられ、そのまま口をこじ開けて、中へと入ってきたのだった。
「ん!」
女は慌てて口を閉じようとするが、間に合わず、すでに触手は、唇と歯に入っていた。歯で噛み切ろうとしても、柔らかい触手は弾力で押し返してくる。せめてこれ以上の侵入は防ごうとするものの、彼女の口中では、触手がだんだんと口一杯に広がっているのが感じられる。
「んんーっ、んんっ」
叫ぶものの、触手の動きは止まらない。彼女の唇に挟まれた触手を通じて、何かが口中へと流れ込んでいるのが感じられる。
彼女の舌が、触手に巻き付かれる。二本の指で摘むように舌を弄んだり、一本は舌を触りつつ、もう一本は口内の奥を舐めてくるなど、変幻自在な動きを伝えてくる。
口の中を掻き回される感覚に、彼女は声を上げようとするが、入り込んだ触手はそれすら許さなくなっていた。彼女には、喉から音を出すのが精一杯だった。
そんな彼女を見ながら、翔太は手を、空いている方の乳房へと押し当てた。人差し指以外の四本で乳房を掴みながら、残る人差し指の先端を、彼女の乳首に押し当てる。
敏感な場所に爪を当てられた感触に、彼女は首をわずかに振って、拒否の意志を見せようとする。だが、そんな行動は、翔太に潜むものの嗜虐心を満足させ、さらに高みへと向かわせるだけだった。
翔太は、彼女に見せつけるように左手の人差し指を持ち上げた。そして、右手にしたのと同様に、左の指先にも意識を集中した。
その途端、指先に変化が起こった。指先の爪がだんだんと薄くなり、やがては指先の皮膚と同化をした。見せつけられる変化に彼女は目を剥くが、指先の変化はまだ続いていく。
指の先端が、だんだんと細くなっていく。そして、つららのような形になった先端が、再びゆっくりと彼女の乳首へと伸びていく。
尖った先端が触れた瞬間、彼女は首を左右に振った。体に、細いものが刺されていく恐怖からのものだった。
そんな彼女を見つめつつ、指先の動き自体は、先端が乳首に触れた所で止まった。
だが、ほっと安堵したのも一瞬だけのことだった。
彼女は、さきほど口の中へ触手が入ってきたのと同じことを、乳首にも感じさせられることになった。乳首に触れた先端から、何かが流し込まれるかのように、乳房へと押し入ってくるものがあるのだった。
んっ、んっ、と彼女は声を上げるものの、翔太の指先は止まらない。彼女は己の乳首へと、一本の針が突き刺され、しかもそれは乳房の中で枝分かれをし、乳房全体に広まっていく感覚から、逃げることはできない。
そして、突き刺された指先の動きが止まったかと思うと、今度は乳房の中から、突き刺された触手を通して、何かが流れ出ていくのを感じさせられることになった。
これが、翔太に潜む者が得た、新しい能力だった。その能力は、体を触手状に変化させることだけではない。変化させた身体を女の体へ突き刺すことで、女の持つ精を集めることが可能になるのだ。身体の奥に潜り込み、精を直接集めることで、精液などの体液を経由して集めるよりも、はるかに質の良い精を得られるのだった。
――乳房が犯される。
そうとしか表現のしようがない状況に、彼女の全身に鳥肌が立つ。体の自由を奪われた彼女には、それぐらいでしか今の心境を表現することは出来なかった。拒否することも逃げることも出来ず、彼女は触手の動きを受け入れるしかなかった。
(あ……)
触手に乳房をレイプされながら、彼女は乳房に変化が起こっているのを感じていた。
乳房の中が熱い……それも、不快な熱さではなく、興奮した時に感じる、心地よい熱さだった。
中に入った触手が動くと同時に、外側を包む四本の指も、指の関節を無視した曲がり方をして、彼女の乳房を外側から刺激していく。
(な……何、これ……)
乳房から沸き起こってくる感覚を、彼女は最初は否定しようとした。だが、いくら否定しようとしても、その感覚は、これまでに感じた同種のものよりも、はるかに深く、はるかに激しいものだった。
それは、快感だった……
(ど、どうして?)
相変わらず、見知らぬ男に触手でレイプされる嫌悪感ばかりが、彼女の気持ちを占めていた。だが、それとは別に、嫌悪感を与えてくる相手から、彼女は同時に快感を感じ始めてしまっているのだ。
(こ、こんなの……イヤ……)
おぞましい相手に快感を与えられる――それはまるで、本人の意思とは別に、体の一部が相手を受け入れてしまっているように思えた。
受け入れまいとする心と、受け入れてしまう体。二つの狭間で、彼女は戸惑い、悶え始めていた。
「あ……」
彼女の口を塞いでいた触手が抜け出し、湿った空気が彼女の口中へ入り込む。
口が自由になった彼女は、再び叫び声を上げる。
「や……やだ、止めて……」
だが、その声はさっきのものよりも弱々しいものだった。言葉の意味は彼女の心を表しているが、合間に入る溜息は、彼女の体を表しているのだ。
翔太の触手が彼女の口から離れたのも、そんな言葉と声を聞くためだった。
「あ……や……」
彼女の言葉を聞き流しながら、翔太は左手の人差し指から伸びた触手で彼女の乳房を打ちと外から蹂躙していく一方、口から出した二本の触手を、今度は彼女の首筋へと這わせた。
「そんなとこ……」
触手は、彼女の首筋から肩、耳、さらには耳の穴にまで伸びていく。微妙に触れられる感覚に彼女は怯えつつ、触れられることによる体の変化へ、不安を感じていた。
触手が耳の裏に触れた途端、彼女の体がぴくりと動いたのを、翔太は見逃さなかった。そこを重点的に攻めていくと、彼女の口から小さな溜息が漏れ始めた。
「や……そこ……いや……」
彼女は、自分の体が作り替えられてしまうような恐怖を感じていた。望んでもいないのに、体が勝手に快感を創り出し、求めていくように変えられる恐怖を。
身体の変化に敏感になった彼女は、体中の異変を探った。そんな彼女が一番最初に気づいたのは、股間の変化だった。
(あたし……濡れてる)
濡れること――それは女が男を求める反応だ。そんな変化を隠そうと、彼女は足を動かして股間を隠そうとする。だが、彼女の動きは、翔太の意識をそちらへ向かせる結果になっただけだった。
「お願い……来ないで」
翔太が腰を浮かして近づいてきたのを感じて、彼女は声を上げる。それに反応したのか、翔太の腰は彼女の手前で止まった。
(本当に、来ないの?)
止まった彼の動きに、彼女は安堵の溜息をもらす。だが、それはぬか喜びに過ぎなかった。
「あっ……」
翔太が腰を動かしていないのにも関わらず、彼女の股間に何かが当てられた。それは、彼女の口中や乳房へと入ってきたものと、同じ感触だった。いや、それよりももっと太いものだった。
「は、入ってくる……」
股間へと翔太の伸びたペニスが入ってくる度に、彼女の頭にはおぞましさが、そして彼女の体には快感が沸き起こる。
「やだ……こんなの」
彼女が嫌がっているのは、おぞましさと快感を同時に感じてしまう自分の体自身だった。
そんな彼女を無視して、触手はなおも彼女の股間へ入り込んでくる。
「あはぁ……」
ついに、彼女の口からは、切ない溜息が漏れた。彼女の体は持ち主の支配を離れ、翔太の支配下へと移ろうとしているのだ。
入り込んだ触手は、ペニスよりも激しい動きを始めた。
「あはっ!」
突然の刺激に、彼女は喘ぎ声を上げてしまう。挿入するだけのペニスに比べ、触手の動きは自由自在だった。
触手は、自由に折れ曲がり、その先端で彼女の中を刺激し始めた。まるで、Gスポットを探す男の指先のように、先端で彼女を突っついては、その反応を確かめていく。
それだけではない。触手は形を自由に変え、ペニスには一つしかない雁首を、いくつも創り出したのだ。
「あひっ」
雁首がいくつもあるペニスが挿入される度に、ごりごりとした刺激が快感を伴って彼女を襲う。人間とは違った形状により快感が送り込まれる度に、同時に彼女は人外の者に犯される嫌悪感を感じていたのだった。
さらに、触手は彼女の中で収縮を行った。風船のように膨らみ小さくなる感覚は、ペニスのピストン運動とはまるっきり違った。ペニスの場合は、入り口から奥へと刺激が起こるのに対して、膣内で膨らむ触手は、入り口から奥までを同時に刺激するのだった。敏感な場所全てを、同時に刺激され、快感が幾重にも重なって沸き起こる。
「あ……気持ちいい……」
人外のものに犯される感覚は、人外のものが与える快感に押し流されていった。
だが、人外のものの動きは、まだまだこれからだった。
「は、入ってくる……」
彼女の言葉通り、触手は彼女の中へと入っていった。先端が細くなり、子宮口を越え、その先端は子宮の中へと入っていくのだった。
男のペニスであれば、絶対に入ってこれない場所、どんなにレイプされようとも、そこだけは触られるはずのない場所――その場所へと、触手は入り込んでくるのだ。
「ん……くはっ……」
子宮口で一度は細くなった触手は、子宮に入るなり容積を増し、一杯に広がった。触手で、彼女の全てを埋めてしまうような動きに、彼女は悶えるだけだった。
「あ……何、何か……出てくっ」
子宮へと入り込んだ触手を管にして、翔太は彼女の精を吸い取っていった。何かが体から抜け出していく感覚は、彼女の味わったことのないものだったが、強烈な快感だった。
今や彼女は、翔太の触手を媒介にして、射精に近い行為を行っているのだった。本来は、男のものを受け入れるための体からの放出は、体のつくりを越えた行為になっている分、その刺激も強烈だった。
「出るっ……出ちゃうっ。あはぁっ!」
女は、初めて射精をした少年のような声を上げて、その快感を訴えた。
彼女の精と心を奪ったことで、翔太に潜む者は満足感を感じつつ、さらに触手の動きを強めていったのだった。
「やはり、男として精を奪う方が、俺にはあっているようだな」
新たに身につけた能力により、男からも女からも自由に精を奪えるようになった翔太に潜む者は、眼下でぐったりとしている彼女から、さらに精を吸い取ろうとするのだった。

第十二章<完>

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この作品は、
「月華の本棚」http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/8113/main.html
に掲載されたものです。