『闇に潜む者』〜第六章 "催淫"
作：月華
有紀の身も心も支配した翌日の金曜の放課後、健司に潜む者は、ごく普通の学生を装って学校の中を歩いていた。
ただ歩いているのではない。新たに入り込み、精を集めるための女体を探しているのだった。
せっかく入ることの出来た男の体から離れるのは惜しいが、自らが精を集めるためには、女性の体に入り込む必要がある。能力が高まれば、男の体のままで精を集めることも可能になるのだが、今の段階ではそれぞれの肉体の仕組み――男は精を放ち、女は精を受け入れる――に従わざるを得ない。
入り込む相手は女であれば誰でも良いという訳では無い。男を知らない処女の方が、入り込んだ後で、より効率的に精を集めることが出来るのだ。それに、入り込む時も、処女の方がいろいろと楽しむことが出来る。
まるで、人買いのような目つきで、健司は学校を歩く女の子を見つめていた。いやらしいながらも、冷静な目つきで。
やがて、健司は一人の少女に目を付けた。
その女の子は、黒縁の大きな眼鏡を掛け、櫛で丁寧に梳かした黒髪を肩まで流し、廊下を歩いていた。出口へ向かうところからして、帰宅途中なのだろうが、他の女生徒のように友達連れではなく、一人で歩いていた。
（あいつに、決めるか）
健司に潜む者は、健司の知識から、同じ学年の、２年Ｃ組の委員長、中島真沙子だと読みとった。
「真沙子さん」
普段は名前で呼ばれることなどない彼女は、聞き知らぬ声から名前を呼ばれて、不信気に後ろを振り返る。
呼びかけてきた男のことは、真沙子は他のクラスの誰か、としか覚えが無かった。何を言われるのだろうかと、真沙子は身を固くする。
歩みを止めた彼女へと、健司は一歩近づき、他の者に聞こえないように、小さな声で囁いた。
「なあ、ちょっと体を貸してもらえないかな」
突然そんなことを言われたら、潔癖性の真沙子は大声を上げていたことだろう。だが、今回は違った。
「はい」
短く簡潔に答えて、真沙子は健司に寄り添ったのだった。
授業時間を終えた用具室を使うものは、誰もいない。
だが今は、健司と真沙子の二人が、用具室を占有していた。
誰にも見られないように忍び込み、鍵を閉めるなり、健司は真沙子に向けて囁いた。
「いいか。お前は娼婦だ。俺はお前の客なんだから、せいぜい楽しませてくれよ」
「はい、かしこまりました。お客様」
「……健司様、で良い」
苦笑しながら健司は答えた。相手のことを『お客様』と呼ぶ娼婦はあまりいないと思うのだが、娼婦に対して断片的な知識しか持っていない真沙子が娼婦になれと命令をされても、言葉遣いや、ましてや娼婦としての技術がすぐに身に付くものではない。だが、そのギャップこそが、健司に潜む者を楽しませるのだ。娼婦に対して嫌悪感を持ち、ゆがんだイメージを持っている者の方が、いざその知識に基づいて娼婦として行動させると、結果としては普通の娼婦以上に淫らな行動を取ることになるのだ。
「それじゃあ、楽しませてもらおうか」
言って健司は、真沙子の腕を取って部屋の奥へ導いてから、自分は近くにあった椅子に腰を下ろし、真沙子を目の前に立たせて、その様子をうかがった。
しばらく健司を見つめていた真沙子だったが、やがて制服の上着に手を掛けた。その動きは、家に帰って着替えをする時のように、ごく普通のものだった。娼婦のように、一枚一枚脱いでいったり、相手に脱がせたりして、その過程を楽しませるようなことはしない。ただ脱いでいくだけだった。
上着を脱いだ真沙子は、脱いだ制服を持ってわずかの合間悩んでから、手にしていた制服を、健司の足の上へと置いた。
（男は誰でも制服を与えられて喜ぶものだと思っているのか）
わかりやすい真沙子の偏見を感じながら、一枚一枚脱いでは健司の膝の上に脱いだ服を置いていく彼女の様子を健司は見つめていた。
真沙子の上着は全て脱がされ、後はブラとパンティのみとなった。真沙子は、無表情のままに、下着を脱いでは、またしても健司に渡していく。潔癖な女の子のように裸を見られることを恥ずかしがることもなければ、娼婦のようにわざと恥ずかしがって男を興奮させることもない。淡々と脱いでいっては、健司に預けた制服へと重ねていく。
パンティも脱ぎ、全裸になった真沙子は検事の前に立ちすくんだ。これからどうするのだろうか、と真沙子の出方を見ても、それ以上は何もしようとしない。
……きっと、女が男の服を脱がせるなんて、考えてもいないんだろう。
そう思った健司は、立ち上がり真沙子の服を放り投げてから、自らの服も脱ぎ始めた。あっと言う間に下着も脱ぎ捨て全裸になった健司を、真沙子はじっと見つめている。初めてみる男のもののはずだが、真沙子は目を背けることもなければ、ましてや陶然と見つめることもしない。
「さあ、気持ちよくさせてくれよ」
再び椅子に座ってから、健司は剛直したものを真沙子にさらけ出した。
「健司様のオチ○チン、固くて大きくて、立派です」
口を開くなり健司のペニスを誉め讃える真沙子が、健司にはおかしかった。真沙子にとっての娼婦とは、男性器を誉め讃え媚びを売る姿なのだろう。
それから真沙子は健司の前に膝立ちになったかと思うと、さらけ出された小さな乳房を健司のペニスに当ててくるのだった。
真沙子は健司の両足に手を載せながら、胸を突き出すように乳房を健司のペニスへ触れてくる。まだ膨らみかけた乳房に健司の剛直したペニスが当たってはその向きを変えていくだけで、健司にとっては気持ちいいものではない。
「気持ちいいですか？ 健司様」
おそらく真沙子は、パイズリでもしているつもりなのだろう。胸で男のペニスを触るという知識はあっても、挟むほどの大きさもない乳房と、その方法を知らない知識の中で、真沙子はそういったやり方を取っているのだ。
（出来の悪い娼婦だ）
内心そう思うものの、健司は悪い気はしなかった。テクニックは、健司に潜む者が真沙子に憑依して体を動かしてやっていけば、すぐに身に付くだろう。小さな乳房については、いずれ健司に潜む者の能力が増して、他人の肉体を自在に変化させられるようになったら、大きくしてやろうと思う。それよりも、何も知らない少女を娼婦のように奉仕させていることが、何よりも健司を満足させるのだった。
「それよりも、お前の舌で俺のを舐めてもらおうか」
「はい」
短い答えと共に、真沙子は健司のペニスから胸を離し、小さな唇から紅い舌を伸ばし、隆起する健司のペニスへと伸ばした。
真沙子の舌先が触れると同時に、指先で押さえられていないペニスは逃げるように脇へと逸れた。だが、真沙子はペニスを固定することなど思いつかずに、舌を伸ばしたまま顔を動かしては、逃げていく健司のペニスを追いかけていく。
滑稽ではあるが、いやらしい光景だった。逃げるペニスに少女が必死になって詰め寄っていく。時には跳ね返るようにペニスの先端が真沙子の顔に打ち付けられるが、それでも真沙子はペニスを求め続ける。
「指先で根本を押さえるんだ」
「はい」
天啓のように、真沙子は指先を伸ばして健司のペニスを固定する。そして、さらけ出された裏筋の部分へと舌を伸ばし、ひたすらに舐めていく。
真沙子が舐める部分は、裏筋のところだけだった。どこを舐めれば男が気持ちよくなるのかも知らず、真沙子は最初に触れた一カ所だけを舐めていく。
「そこだけじゃない。先っぽの所とか、くびれた所も舐めるんだ」
「はい」
真沙子の舌先は、口から伸ばされたままに、裏筋から雁首へと移動する。舌で形をなぞるようにぐるりと一周してから、舌先を亀頭の先端へと伸ばす。
さっきは裏筋だけだったのだが、今度は亀頭全体を嘗め回していく。亀頭の先端から雁首まで、唾液を塗り重ねるように舐め上げていく様は、さながら亀頭への刺激を専門にしている娼婦のようだった。
だが、娼婦の役割は、これだけではない。
「さて、いよいよ俺のこいつを、お前のマ○コで気持ちよくさせてもらおうか」
「はい」
真沙子はこくりと頷いてから、立ち上がり健司の足へとまたがった。そして、指先で健司のペニスを摘み、まだ処女の入り口へと導いていく。
処女を失うことへの恐れは、娼婦である真沙子には無い。あるのはただ、己の肉で健司のものを受け入れ、気持ちよくさせることだった。
「ん……」
小さく溜息を漏らすのを合図に、真沙子は全体重を腰に預けた。少女の軽い体とは言え、全体重をかけられた真沙子の処女抗は、一気に健司のペニスを飲み込んだ。
「気持ちいい……」
激しい処女喪失の行為に、真沙子はかなりの痛みを感じているはずなのだが、その口からは快感を訴える声が漏れる。本当に気持ちよいのか、痛みは感じていないのか定かではないが、娼婦である真沙子にとっては、男のものを受け入れると同時に、そう言わなければならないのだ。
健司のものを飲み込んだままに、真沙子は腰を動かせずにいた。体重を腰へ預けてしまい動けなくなっている上に、そもそも女の方から腰を動かそうという考えすら持っていない。
それを察した健司は、体をずらし真沙子を抱きかかえると同時に腰を退き、健司のものを飲み込んでいる真沙子の股間を、ゆっくりと持ち上げた。
「ああ……気持ちいい……」
二人の結合部分から、透明な粘液の他に、赤い鮮血が流れ出してくる。男のものを飲み込んで快感の声を上げている娼婦には似つかわしくない、鮮やかな色だった。
健司は流れる血をそのままにしながら、動きを再開した。腰を動かすのは、健司の役目だった。座位という格好の上、どのように腰を動かして良いのか分からない真沙子は、ただ喘ぎ声を上げるのが精一杯だった。
健司が真沙子の体を持ち上げ腰を突き上げては、真沙子は健司のものを受け入れ喘ぎ声を上げる。
二人の立場を物語る役割分担は、健司をなおも興奮させていった。
「出してやるっ。お前の中に、出してやる」
「はい。出して……出して下さいっ」
「いくぞっ」
健司は腕の力を抜いて、真沙子の体を己のものへと落とし込むと同時に、体に溜まっていたものを解放し、真沙子の中へと撃ち放った。
「どうだ？ 俺のが、入っていくか？」
「はい。健司様の精液、あたしの中に入ってきますぅ」
甘ったるい声を上げながら、真沙子は歓喜の声を上げた。
処女でありながら絶頂を感じたように叫ぶ真沙子を、健司は満足げに見つめていたのだった。
「楽しませてもらったことだし、こいつの体に入ることにするか」
ぐったりとしたままの真沙子の体を降ろし、床に横たわらせてから、健司は真沙子の耳元へ近づいた。
「よく聞け。お前は器（うつわ）だ。何もしなくても良い、何も考えなくても良い……空っぽの、器だ」
横にされた真沙子の全身から、さらに力が抜けていくのが見て取れる。
「器は、中身を受け入れるためだけに存在するのだ」
そう宣言してから、健司は閉じられた足を左右に割って入り、己のペニスを真沙子の股間へと当てる。
すでに濡れている股間は、健司のものをするりと飲み込んだ。
「ふぅぅ……」
敏感な部分が包み込まれる感覚に、健司は溜息をもらす。一方の真沙子には、何の反応もない。さっきまでの娼婦のように、よがることもなければ、処女を失ったばかりのように痛がることもない。
無反応な真沙子に構わず、健司はピストン運動を始めた。力強く腰を動かす健司とは対照的に、真沙子の体は人形のように健司の動きに震えるだけだった。だが、見えないところで変化は始まっていた。健司のものを入れられている真沙子の股間が、ゆっくりと動き始めたのだった。健司の激しい振動に共鳴するように、肉壁が小さく震え初め、健司の刺激に答えていく。
ペニスで真沙子の反応を感じつつ、健司は真沙子の両手を取って真沙子の乳房へと載せてから、重ねた手の上に自らの手を当てて、真沙子の手と乳房を同時に揉み始めた。
真沙子の指は、健司の指と乳房に挟まれて、波間を漂うように動いていく。だが、真沙子の股間と同様に、指先にも変化が始まった。真沙子の指は、健司の指とは独立した動きを持ち、自らの意志で乳房を揉み始めたのだった。
それを強調するかのように、代わって健司の指先からは力が抜けていく。だんだんと動きがゆっくりとしたものになり、ついには真沙子の手に添えられるだけになった。
その手を、真沙子の手が掴んだ。今度は健司の手を下にして、自らの乳房と手で挟み込みながら、さらに自らの乳房を愛撫していくのだった。
その動きには、ぎこちなさは無い。自分の感じる場所をすっかり分かっていて、そこに男の太い指先を当てて刺激を楽しんでいる姿だった。
健司の指先だけでなく、腕からも力が抜けていく。支えを失って倒れ込んでくる健司の上体を、真沙子の腕はしっかりと支え後ろに倒してから、その勢いで自らの上体も持ち上げた。
座位になったままに、真沙子の唇に、健司の唇が重ねられる。
「うふふふ……」
床に倒されてから、真沙子が初めて声を上げた。
その表情は、さっきまでの娼婦を演じていた顔ではない。自らの体に感じる快楽を味わっている女の表情だった。
「もっと、もっとよ」
せかすように、真沙子は健司の体を押し倒した。立場が逆になり、真沙子に命じられる健司だが、健司はその命令には答えない。それどころか、さっきまで動かしていた腰も、今はその動きを止めている。
だが、真沙子はそれを補うように、自ら腰を振っていった。男の体を下に組み敷きながら、器用に腰を動かしていく
さっきまでの、相手の動きに流される動きとは違っていた。相手を気持ちよくさせる一方で、より固くなった相手のもので、自分の感じる場所を刺激していく。
「あはは……いいわ。いいわ」
歓喜と優越感に浸りながら、真沙子は健司を犯し続けた。
腰を振り、髪を振り乱し、乳房をまさぐりながら、ひたすら自らの快感を求めていく。
「来て……来て……」
真沙子の声に、健司のペニスが反応した。
どくんっ、と健司のペニスが大きく跳ねたかと思うと、その先端から熱いものが真沙子の中に入り込んでくる。
「ああっ、来る……来る……」
男のものが、体の奥深くまで入り込んでくる。
子宮を突き破り、体中に入り込んでくる。
血流に乗り、全身に流れ込んでくる。
そして、真沙子の意識は、
消えた。
真沙子が叫び声を上げてから、しばらくして、真沙子の体がゆっくりと動いた。腰を上げると、真沙子が流した粘液が健司との間で糸を引き、その粘液に包まれた健司のものが、姿を現す。それは、真沙子に入れる前の隆起とは打って代わり、すっかり小さなものになっていた。
真沙子は、己の体を見下ろした。小さな乳房とまだ開発されていない股間……男を誘い込むには不十分と言えたが、今の真沙子には、誘導の術がある。真沙子に潜む者が持つテクニックがある。
「まずは、お前の精をこの体で搾り取らせてもらうとしよう」
真沙子は、すっかり小さく健司のペニスを口に含んだ。真沙子に潜む者によって、それが元の大きさを取り戻し、精を放つまでには、そう時間は掛からなかった。
第六章＜完＞
第七章「変化」へ
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この作品は、
「月華の本棚」http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/8113/main.html
に掲載されたものです。